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108 本当の戦い


「ここで……私が頑張らないと……」


ひなは、震える唇を強く噛みしめた。

足はガクガク震えている。

心臓はドクンッ、ドクンッと耳の奥で爆音みたいに鳴っている。


でも、それでも――胸の奥から、たしかな言葉が湧き上がった。


“絶対負けない。

 美歌さんが言ってた……自分を貫けって……。

 シュウは、絶対……絶対、私が守る……!”


ギュッ――

ひなは、気を失ったままのシュウの肩を掴み、背中に隠すように前へ一歩踏み出した。


「……だから……シュウには、指一本触れさせないッ!!」


その気迫に呼応するように、

店の空気がビリビリと震えた。


女がピタリと動きを止め、

重たい沈黙が落ちた。


———そして。


「…………ふふ」


ヒッ……!


ひなの背筋をアイスピックで刺されたような寒気が走る。

女が、顔だけゆっくりと、ぎこちなく傾けて笑い始めた。


「ふふ……ふふふふ……」


その笑い声は、人間のものではなかった。

金属を擦り合わせたような、歪んだ、耳を壊しにくる音。


「ふふ……あはは……あ——ははははっ!!」


ガシャァァァアン!!!


突然、店の奥の棚が勝手に倒れ、

皿が雨のように降り注いだ。


ひなはビクッと身体を跳ねさせながらも、女から目を逸らさなかった。


それを見て女は、口の端をニチャァとつり上げた。


「へぇ〜〜……?

 そんな顔で睨めるんだぁ……。

 人間のくせに、面白いじゃない……?」


女が一歩踏み出すたびに――


ズズズ……ズズッ……ッ


床が沈むような、重たい音が響く。

空気が歪み、店内の温度が一気に下がる。


ひなの息が白く煙った。


「さぁ……どこまで耐えられるのかなぁ……?

 そのちっぽけな身体で……?」


女が指をひとつ鳴らした。


パキィィィィィン!!!


電球が全て同時に割れた。

店内が一瞬で真っ暗になる。


「きゃあああああああっ!!」


ひなの悲鳴が闇に飲まれる。


その闇の中、耳元すぐ近くで———


「……生意気ねぇ……?」


ゾゾゾゾゾゾッッ!!!!


女の冷気が首筋を撫で、ひなは反射的に肩をすくめた。

でも、逃げない。

たった一歩も、下がらなかった。


震えながら、ひなは息を吸って絞り出す。


「……絶対……負けない……ッ!!

 あなたなんかに……絶対……!」


その声は震えていたけれど、

消えていなかった。


その瞬間、

ひなの足元で———


カタン……カタン……ッ。


何かが動き始める音がした。


いよいよ、

“本当の闘い”が幕を開けようとしていた。


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