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107 絶対、絶対に!


女は、薄闇の中でゆっくりと笑った。

その笑みは、口角だけがひきつり上がる“壊れた笑顔”だった。


「……何、この女……。

 生意気ねぇ……」


ひとこと吐き捨てた瞬間――


バサァァァァァッ!!


女が軽く手を横に払っただけで、

店の空気が爆発したみたいに荒れ狂った。


ドンッッ!!

ガラガラガラァァァッ!!!

バキィンッ!!!


棚のグラスが空中に跳ね上がり、

皿が壁に叩きつけられて粉々に砕ける。

テーブルがギギギッと軋みながらズルズル後退し、

イスがまるで何かに蹴飛ばされたように宙を舞った。


ひなの髪が一瞬で逆立ち、

服が身体に叩きつけられるほどの暴風が店中を襲う。


「きゃああああああっ!!」


叫びながらも、ひなは必死に足を踏ん張った。

でも膝がガクガク震え、今にも倒れそうだった。


それでも、ひなは前に出た。


シュウの腕を掴み、その身体を抱きしめて必死に覆う。


「シュウを……返して!

 いいから……帰ってぇぇぇ!!!」


風が喉に入り込んで声がかき消されそうになる中、

ひなは壊れたみたいに同じ言葉を叫び続けた。


ゴォォォォォォッ!!

風の唸りが獣の咆哮のように強くなる。


その瞬間――


ドサッ


「えっ……?」


抱きしめていたシュウの身体が、

急に重く、ぐったりと力を失った。


ひなが顔を上げると、

シュウの頭がストンと前に落ち、

まるで糸が切れた人形みたいにテーブルへ崩れ伏していった。


「し、シュウ!?

 シュウ!! ねぇ!!」


ひなは揺さぶった。

でも返事どころか、まつ毛ひとつ動かなかった。


「ダメ……ダメだよ……起きてよ……!」


震える声が風に掻き消されていく。


女は、そんなひなをじっと見下ろして、

赤黒い目を細め、かすかな笑い声を漏らした。


「……無駄よぉ。

 その子は……もう“向こう”と繋がっちゃった。

 生きてると思ってるのは……あなただけぇ……?」


店の奥から、

ガタンッ! ガタンッ!!

と何か大きなものが動き出すような音が響き始める。


空気はますます重く、冷たく、音を吸い込むように変わっていった。


ひなは、その中でも叫んだ。


「絶対、渡さない!!

 シュウはここにいる!!

 絶対、絶対に!!!!」


風がさらに強まり、

女の形がゆらりと大きく歪んだ。


ひなの足元がズルッと滑り――


いよいよ、すべてが壊れ始める気配がした。


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