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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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ノワール邸

ノワール邸の内部は、外観以上に静謐だった。


石と木で組まれた廊下は、

王都の喧騒を完全に遮断しているかのようで、

足音すら遠慮がちに響く。


「この辺りは、生活区画だ」


ノワールが淡々と説明しながら歩く。


「派手な魔術は好まなかった人でね。

 必要なものだけを、必要な形で残す――

 それが、師の流儀だった」


壁に掛けられた古い魔術陣の拓本、

棚に並ぶ、年代の異なる魔導書。


どれもが、

“使われてきた”気配をまとっている。


エレノアは、気づけば歩調を落としていた。


(……すごい……)


ただ珍しいからではない。

“実践の痕跡”が、そこかしこに残っている。


ページの角が摩耗した書、

魔力の通り道が何度も書き直された陣図。


それらはすべて、

机上の理論ではなく、

試行錯誤の末に積み重ねられたものだ。


「……この書式……」


エレノアは、思わず一冊の魔導書に手を伸ばした。


「循環式の魔力安定理論……

 古い形式だけど……実用性が高い……」


声が、自然と弾む。


ノワールはその様子を、横目で静かに見ていた。


「わかるかい」


「はい……!

 これ、現代式より非効率に見えるけど……

 実際は、暴走耐性が高いんです」


言葉が止まらない。


「特に、人格を持つ存在と魔力を共有する場合――」


その瞬間、

ルベルの気配が、わずかに揺れた。


エレノアは、はっとして言葉を切る。


(……あ)


沈黙が一瞬、落ちる。


だがノワールは、何も言わずに頷いた。


「その通りだ。

 師は、“制御できない力”を何より嫌っていた」


柔らかな声。

けれど、その奥にある硬さを、

エレノアは魔術師として感じ取ってしまう。


視線を移すと、

ガラスケースの中に、小さな魔道具が収められていた。


用途不明。

だが、精緻な刻印。


「……これは……」


「試作品だ。

 完成には至らなかったが……

 理論としては、今でも通用する」


エレノアの瞳が、はっきりと輝いた。


さっきまでの曇りが、嘘のように晴れていく。


(……やっぱり……

 私、魔術が……好きなんだ……)


恐れも、迷いもある。

けれどそれ以上に、

“知りたい”という欲求が、胸を満たしていく。


ルベルは、少し離れた場所でその背中を見ていた。


触れたい衝動を抑え、

言葉も挟まず、ただ見守る。


――エレノアが輝く瞬間を、奪いたくなかった。


ノワールは歩みを進めながら、ふと振り返る。


「……夕方には、研究室だ。

 あそこは、もう少し踏み込んだ場所になる」


エレノアは、力強く頷いた。


「……はい。

 ぜひ、見せてください」


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