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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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定義と抵抗

書斎の空気は、

扉が閉じた瞬間から重く沈んでいた。


ノワールは机の縁に手を置き、

エレノアから一歩、距離を取ったまま話し始める。


「まず、はっきりさせておこう。

 禁術とは何か、だ」


その声には、

感情の揺れが一切ない。


「禁術とは、

 “使った結果が危険だから禁止されている術”じゃない」


エレノアは息を詰めた。


「存在すること自体が、世界の均衡を壊す可能性を持つ術。

 それが禁術だ」


淡々とした説明が、

刃のように胸へ落ちる。


「魂を人工的に精製すること。

 意思を持つ魔術生命を造ること。

 主への絶対的な帰属を前提とする核を組み込むこと」


ノワールは指を折る。


「そのすべてが、

 魔術師協会では“(レッド)”だ」


「……でも……!」


エレノアは思わず声を上げた。


「ルベルは、暴れてない!

 誰も傷つけてないし……私を守ってくれてる!」


「“今は”な」


即答だった。


「エレノア。

 危険性の判断は、現在進行形で行うものじゃない」


ノワールの目が、

一段、冷たくなる。


「暴走の可能性が存在する。

 それだけで、封印理由としては十分だ」


「そんな……!」


エレノアは一歩踏み出す。


「ルベルは……

 私の話を聞いて、ルールを守って、

 触れないって決めたことも守ってる!」


「それが、問題だ」


「え……?」


ノワールは静かに告げる。


「彼は、

 “理性で本能を抑えている”」


その言葉に、

エレノアの喉が詰まる。


「抑えている、ということは――

 抑えなければならない衝動が、常に存在している」


一拍。


「それが解放された瞬間、

 誰が責任を取る?」


「……っ」


「君か?

 それとも彼か?」


エレノアは、

唇を噛みしめた。


「……それでも……

 封印なんて……そんな……」


声が震える。


「封印は“処罰”じゃない」


ノワールは淡々と続ける。


「安全確保のための措置だ」


「……安全……?」


エレノアは、

はっきりと顔を上げた。


「それって……

 ルベルの意思を、

 存在そのものを、

 “閉じ込める”ってことでしょう?」


ノワールは否定しない。


「そうだ」


書斎に、

重たい沈黙が落ちる。


エレノアの胸が、

ぎゅう、と締めつけられる。


「……それは……

 ルベルを……

 “生きてないもの”にするのと同じ……」


「感情論だ」


ノワールは言い切った。


「だが、俺はそれを否定しない。

 君がそう感じるのは、当然だ」


その言葉が、

逆に残酷だった。


「だからこそ、

 君の感情を含めた上で――」


ノワールは、

はっきりと告げる。


「このまま放置する選択肢はない」


エレノアの視界が、

一瞬、揺れた。


(……放置してるつもりなんて……)


必死に、

必死に守ろうとしてきたのに。


「……ルベルは……

 私が必要だから、

 ここにいるんです……!」


縋るような声。


「彼も、私を必要としてる……

 それを……

 “危険だから”って理由だけで……!」


ノワールは、

ほんのわずかに目を伏せた。


「……だからこそ、危険なんだ」


その一言が、

すべてを切り裂いた。


「相互依存。

 主と召喚体の境界が曖昧になった状態」


ノワールは、

エレノアをまっすぐ見る。


「それは――

 破綻する前触れだ」


エレノアの喉から、

声が出なかった。


「君が彼を守りたいのはわかる」


「だが俺は、

 君を守る立場だ」


その言葉に、

逃げ場はなかった。


書斎のランプが、

静かに揺れる。


エレノアは、

胸の奥で名前を呼んだ。


(……ルベル……)


ここにいない彼の存在が、

これほど重く感じるとは思わなかった。



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