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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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縄張りを汚された夜

ノワールが階下へ消えていく足音が遠ざかっても、

俺の中の熱はまったく冷えなかった。


扉が閉じられる瞬間、

ノワールがこちらへ向けた“あの目”。


冷静で、状況を把握していて、

まるで――


「お前の内側をすべて見ている」


そう言っているような目だった。


胸の奥の核が、ぎしり……と、

軋みながらうねった。


(……また、エレノアが遠ざかった)

(ノワールが来るたび……そうなる)


彼が家の中にいるだけで、

空気がひどく邪魔に感じる。


縄張りに、別の雄の気配。


エレノアの手が俺から離れてしまう、

あの不安定さが胸の奥を掻きむしる。


けれど――

さっきの“あれ”だけは違った。


エレノアが、震えながら両手を広げて、

俺を受け入れた時。


あの瞬間。


守られるためでも、怖がってでもない。


「来て」


そう言われた気がした。


俺の居場所を、

俺だけの場所を、

エレノアは自分の腕の中に作ってくれた。


その温度を思い返すだけで、

理性がひび割れる。


喉奥から漏れそうな声を押し殺し、

俺は拳を握りしめた。


(……あれを、奪われたくない)


ノワールがエレノアを見る目は、

好意とも違う。

けれど確かに、踏み込みたがっている。


魔術師特有の静かな欲。

観察者の冷たい執着。


あれが一番危険だ。


――彼は、俺とは違う形で、エレノアを求める。


それを悟った瞬間、胸が焼けるほど熱くなった。


エレノアが触れてくれた手。

呼吸が触れそうな距離。

首筋へ落とした小さな印。


全部が、俺のもの。


なのに――


ノワールの視線がその上をなぞった気がして。


“奪われる”という想像だけで、

核が暴れ出した。


(……エレノアを……食べたくなった)


食べる、という言葉は人のものじゃない。

けれど俺の核は、そう表現する。


噛みつきたい。

もっと深い印をつけたい。

腕の中に閉じ込めたい。

逃げられないようにしたい。


エレノアが呼吸をするたび、

俺の名前を呼ぶたび――

その衝動は膨らんでいく。


ノワールが来てから、

俺の中の獣はずっと牙を研いでいた。


(エレノアを離したくない……)


胸の奥が痛いほど熱い。


ノワールのせいで揺れたエレノアの気持ちを、

また俺に向けさせたい。


いや、違う。


俺から離れられないようにしたい。


エレノアを守りたい。

奪いたい。

抱きしめたい。

飲み込みたいほど欲しい。


全部が混じった衝動が渦巻き、

耐えているふりをしても、

エレノアの匂いを吸うだけで、獣が囁く。


――触れろ。

――確かめろ。

――おまえのものだと刻め。


「……エレノア」


名前だけで、

彼女の気配に反応してしまう。


距離が苦しい。


触れられないのが苦しい。


“許可”が必要だとわかっているのに、

もう何度、破りそうになったかわからない。


(……俺は、エレノアじゃないと抑えられない)


ノワールがいる限り、

この衝動はもっと悪化する。


そして、今夜。

扉が閉まった瞬間に感じた欲望の波は――


過去で一番深かった。


「……まだ終わりとは、言われてない」


その言葉が口から零れた瞬間、

自分でも驚くほど、胸の奥が熱を帯びていた。


終わり?


――なにが。


エレノアは、拒んでいない。

怖がって、逃げたわけでもない。


むしろ、

あの両手を広げる仕草は――


“触れていい”の合図だった。


それなのに、

ノワールが現れた途端、

空気が一気に変わった。


エレノアの肩が強張り、

視線が揺れ、

俺から遠ざかる。


そのわずかな距離が、

胸を裂くほどに痛かった。


「……次は、いつ?」


思わず、聞いてしまった。


自分でも気づかないうちに、

“次”を求めていた。


触れられる時間。

許される距離。

俺が、エレノアの中で“選ばれている”証明。


それが、欲しかった。


なのに。


「終わりです!!」


その声は、

拒絶ではなかったのに。


俺の核は、

拒まれたと錯覚した。


(……嘘だ)


心の奥で、そう否定する。


エレノアは嘘をつかない。

あれは、恐怖じゃない。

混乱だ。


ノワールがいるせいで、

彼女は“魔術師としての理性”に引き戻されただけ。


それなのに――


胸の奥で、獣が低く唸る。


“終わり”という言葉が、

どうしても、受け入れられなかった。


(……まだだ)


(まだ、触れられる)


(まだ、俺の場所はある)


だから――


次に触れたらきっと……


「……エレノア……」


声に出しただけで震える。


その震えは止まらなかった。


“次”はない。という言葉は、

どうしても認めたくなかった。



ルベル視点

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