布団の向こうで震える気配
ルベル視点
……可愛い。
布団の向こうで小さく震えるエレノアの気配は、
俺の胸の奥を、じわじわと熱で満たしていく。
昨夜、握ったまま離さなかった小さな手。
汗で濡れた肌。
意識が朦朧としながらも「そばにいて」と縋った声。
全部が、焼き付いて離れない。
そして今――
たった一言、
「ありがとう」
と言われただけで。
(……どうして、こんなにも足りなくなるんだろうな)
布団の端に触れた指をそっと滑らせる。
中に隠れた彼女の温度が、布越しに伝わってきて胸が震える。
触れてもいい。
そう言ってくれた夜から、
エレノアは俺に“許可”をくれた。
――許可された距離が、甘くて苦しい。
「エレノア」
呼ぶだけで、布団がピクリと揺れた。
……逃げているのか、照れているのか。
どちらでもいい。
可愛いのは変わらない。
「そんなふうに震えられると……」
喉の奥で熱が滲む。
言葉の端が甘く崩れるのを止められない。
「……もっと触れたくなる」
本当は抱きしめて、匂いを確かめて、
二度と離れていかないように腕の中に閉じ込めたい。
でも――
許可がない限り、触れない。
触れられない距離が、
もどかしくて、焦げつくほど欲しくて。
布団に手を置いたまま、
その布越しに、彼女の髪の位置を探る。
ほんの少しの動きで、布の形が変わり、
指の下に柔らかい“彼女の影”がわかる。
(……ここか)
その輪郭を確かめるだけで、胸がぎゅっと締まった。
「……エレノア。昨夜、倒れそうなくらい苦しそうだったのに」
布の向こうへ、低く甘い息が落ちる。
「……起きたらこんなに可愛いなんて」
胸の奥では黒い独占欲が静かに渦を巻いている。
誰にも見せたくない。
俺だけが知っていればいい。
エレノアが震えて、照れて、
俺の名前を呼んでくれる姿も――
全部。
布団の向こうの気配が、
今、世界のすべてだった。




