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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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夜の底で、名前を呼ぶ声

エレノアが眠った部屋は、

灯りを落とせばほとんど闇に沈む。


けれど俺には、

その薄闇の中でも彼女の輪郭がはっきり見えた。


呼吸が落ち着き、胸がゆっくり上下している。

時折、薬草の香りが混じった柔らかな吐息がこぼれる。


(……よかった。熱が下がってきてる)


安堵が胸に広がる。

同時に――ぞくり、と背筋に別の感情も走った。


エレノアの手を握ったまま、

俺は微動だにせず座り続ける。


彼女の体温が、

その小さな掌からじんわり伝わってきていた。


(……こんなに、温かいんだな)


触れられない時間が長かったせいか、

その温度は思っていた以上に甘く、危険だった。


手を離せば、

今すぐにでも冷えて消えてしまいそうで。


いや――

離せない。

離したくない。


(……もし、離したら……眠れない)


そんなくだらない理由が胸に湧いて、

自分で苦笑しそうになる。


けれど、手のひらの中の温度は

そんな自己嘲笑さえ静かに溶かしてしまった。


エレノアが眠っている間、

俺はずっと彼女の横顔を見ていた。


少しだけ額に張りついた髪。

うっすら色を取り戻し始めた頬。

微かに震える睫毛。


……すべてが、愛おしすぎた。


(エレノアは、人間の女の子で……

 俺は、造られた“何か”で……)


考えるたびに胸が軋む。


もし俺が危険だと言われれば――

封印を選ぶだろうか?


エレノアの小さな手を握るたび、

その思いは深く沈んでいく。


(……ずっと、こうしていたい)


触れられなかった時間が長すぎた。

だから一度許されると、

心がもう元には戻らない。


エレノアが寝返りをうち、

俺の手をぎゅ、と握る力が強まる。


「……ルベル……」


寝言のような声。

意識はないはずなのに、

呼ばれた自分の名前が胸に刺さる。


(……エレノア)


呼び返した声は、

自分でも驚くほど掠れていた。


彼女が求めてくれるなら――

俺は、どれだけでもそばにいる。


どれだけでも、離れない。


(誰にも、渡さない)


静かな夜の中で、

その決意だけがゆっくりと濃く沈んでいった。


月明かりが

繋いだ手の影を淡く照らしている。


その光景が、この上なく美しくて。

同時に――危ういほど幸せだった。


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