食卓に落ちる熱
夕食の湯気が静かに立ち上っている。
本当なら、いつも通りの穏やかな時間のはずだった。
でも――
(……なんで、こんな……落ち着かないの……?)
向かいに座るルベルが、
静かに、優しく、スープを口へ運ぶ。
そのたびに、
まっすぐ、私の瞳を見つめてくる。
スプーンを持つ姿も、
パンをちぎる手つきも、
とても丁寧で優しいのに……
その目だけが、熱い。
刺すような熱じゃない。
じんわり肌に触れて、胸の奥を焦がすような視線。
(……や、やめて……そんな見たら……味が……わかんない……)
必死でスープを飲み込むが、
味がまったく入ってこない。
ルベルはいつもより少しゆっくりした動作で、
パンを小さくちぎって口に運んだ。
その瞬間も、視線はずっと逸らさない。
まるで――
“エレノアを見ること”だけが彼の食事かのように。
(む、無理……無理……居た堪れない……!)
「エレノア、スープ……冷めるよ?」
低く甘い声が、
距離以上に近く感じて胸が跳ねた。
「は、はいっ!」
慌ててスープをすすれば、
またルベルが少しだけ目を細めて優しく微笑んだ。
……その微笑みが、
逆に心臓に悪い。
(なんで……こんな、甘いの……?!
視線だけで……苦しい……)
落ち着きたいのに、
落ち着けるはずがなかった。
向かいにいるルベルが、
まるで――
大切なものを確かめるように、
ひたすら私を見つめ続けているから。
胸の奥が、また熱くなる。




