落ち着かない
夕食の香りが、
リビングまでふわりと流れてきた。
ルベルが作ってくれているいつもの温かな匂いなのに、
胸の奥が妙に落ち着かない。
エレノアは両手で頬を押さえた。
まだ少し火照っている。
(……もし、もしも……
ルベルが私を“求めたら”……
私……拒めない、気がする……)
自分で考えて勝手に心臓が跳ねた。
ドクン、ドクン、と速い。
そこへ――
コツ、コツ、と
廊下から足音が近付いてくる。
その音だけで、
胸がギュッと詰まった。
(き、来た……)
姿を見なくてもわかる。
ルベルの歩き方だ。
「エレノア。……食べようか」
甘くて、低くて、
耳の奥をくすぐる声。
顔を上げた瞬間――
視線が自然と、彼の“唇”で止まってしまった。
綺麗な形。
柔らかそう。
触れたらどんな感触なんだろう。
ほんの一瞬、
そんな考えが頭をかすめた。
(――はっ!な、なにを考えてるの私!?)
ぶんぶんと勢いよく頭を振る。
「……エレノア?」
怪訝そうに覗き込むルベル。
真紅の瞳が静かに揺れている。
その優しさと熱が入り混じった光に、
また心臓が跳ねた。
(落ち着いて……落ち着きなさい私……!)
エレノアは胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
だけど――
ルベルが近くにいるだけで
呼吸は勝手に乱れていくのだった。




