肩に残る体温
夕暮れの色が完全に消えて、
部屋の中には柔らかい灯りだけが揺れていた。
さっきまで肩に触れていたルベルの体温が、
まだくっきりと肌に残っている。
(……だめ……思い出すだけで顔が熱くなる)
私が何も言えないでいると――
ルベルが、ふいに身体を離した。
ほんの数歩。
それだけなのに、急に寒くなったように感じる。
「……夕食、つくる」
短く、いつもの淡々とした声。
だけど瞳の奥にはまだ、
さっき抑え込んだ情熱の余韻が揺れていた。
「わ、私も……手伝います」
反射的にそう言うと、
ルベルは一瞬だけ目を見開き、
すぐに視線をそらした。
「……エレノア、今は……」
僅かに息を詰める気配。
「……リビングで、待ってて欲しい」
まるで、距離を取らなければ
自分を抑えられなくなる――
そんな危うさを滲ませる声だった。
「………っ」
(そう言われたら……余計に意識しちゃうじゃない……)
頬がじわっと熱くなる。
ルベルは背を向け、
台所へ向かいながら深く息を吐いた。
指先まで残る温度を断ち切るように。
(……私のせいで、あんな風に……)
胸がドクッと鳴る。
けれど、それは不安ではなくて――
触れられた幸福の余韻だった。
私は、そっと胸に手を当てた。
(……どうしよう。
こんなに、ルベルのこと……)
意識してしまう。
たった数歩の距離が、
ひどく遠く感じた。
そしてリビングのソファに座りながら、
心臓の鼓動が静まるのを、
しばらく待つしかなかった。




