冬支度の夕暮れ
夕陽が赤く沈みかけ、
窓際に薄く差し込む橙の光が、室内を柔らかく染めていた。
冬支度の作業を終え、
私は外から運び込んだ木箱を片付けていたけれど――
指先が、じん、と痛むほど冷えていることに気づいた。
(……冷たくなっちゃった)
そんな私を見ていたルベルが、
静かに近づいて、その動作を止める。
「エレノア。手……悴んでる」
「あ、その……冬はいつもこうなので……」
誤魔化そうとした瞬間、
ルベルがふと、低い声で尋ねた。
「……触れて、いいか?」
その声音には、
許可がないと触れないという“あの約束”を
何より忠実に守ってきた彼らしい慎重さがあった。
私はゆっくりとうなずく。
(……ルベルなら、いい)
コクン。
その瞬間――
大きくて温かい掌が、そっと私の手を包み込んだ。
「あ……」
痛いほど冷えていた指先に、
じわりと熱が流れ込んでくる。
ルベルの手は本当に温かくて、
ゆっくり、優しく、私の指をほぐすように包む。
「……どう?」
息が触れる距離で囁かれ、
胸が一瞬跳ねた。
「……あ……あの……」
ゆっくりと顔を上げる。
近い。
ルベルの真紅の瞳が、揺れていた。
(これ……距離が……)
心臓が、ドク、っと跳ねる。
「暖かくて……気持ちがいい……」
ぽそりと口から漏れた言葉に――
ルベルが、ビクッ……と震えた。
「……エレノア……」
ぐっと距離が詰まる。
頬が触れそうで、
息が混ざり合いそうで――
(あっ、これは……)
唇が触れるかもしれない。
そんな予感で心臓が締め付けられたその瞬間――
ぽすん。
「え……?」
私の肩に、ルベルの頭がのった。
その重みは驚くほど素直で、
必死に抑え込んだ熱が、皮膚越しに伝わってくる。
「……これは、エレノアが俺を煽ってるとしか思えない」
低く漏れた声音が、
限界のギリギリで踏みとどまっているのを感じさせた。
「なっ……ち、ち、違います!」
顔が一気に熱くなる。
肩に置かれた彼の頭が、微かに震えた。
「……違わなくてもいいのに」
その呟きは、小さく、夕暮れよりも甘かった。




