ひとりじゃない
外はもうすっかり冬の匂いがしていた。
白い息がほのかに混じる冷気が、開けた窓から流れ込んでくる。
私は乾いた薬草を束ねながら、
ふと視線を向けた先で――
ルベルが薪を整えていた。
淡い光が彼の髪に落ちて、
火を焚く前の部屋の静けさにその姿が溶け込んでいく。
わずかに揺れる後ろ姿を見て、胸がきゅ、と鳴った。
(……今度の冬は、ルベルと過ごす冬なんだ)
その事実がゆっくりと胸の奥に沁みてくる。
これまでの冬はいつも、
冷えた部屋で薬の調合をし、
積雪で外に出られず、
独りで息を白くしながら耐えてきた。
それが当たり前で、
誰かと迎える季節なんて考えたこともなかった。
でも、今は――違う。
ルベルがいる。
ルベルが、ここに。
束ねていた薬草の紐を結ぶ手が、少し震えた。
「エレノア、寒くないか?」
振り返ったルベルの声が、
冷気とは正反対の温度で私に触れる。
「……だ、大丈夫。寒いのは慣れてますから」
そう答えると、ルベルが少し困ったように眉を寄せた。
その仕草がなぜか胸をくすぐる。
「慣れてても……我慢しなくていい。
俺がいる。“もうひとりじゃない”」
最後の言葉が、すとんと胸に落ちた。
……そうだ。
もうひとりじゃない。
そう思った瞬間、
冷たいはずの冬の空気が、
なぜかとてもあたたかく感じられた。
(ねえ、ルベル。
どうしてこんなに……あなたのことを)
動悸が静かに早まっていく。
完全に気づいてしまった“好き”という想いを、
どうすればうまく隠せるのか分からない。
ルベルの視線をまともに受け止められなくて、
私は慌てて棚に向き直った。
その背中を追うように、
後ろからルベルの気配が近づく。
触れられていないのに、
触れられたように身体が熱を帯びる。
(……この冬を、ルベルと過ごす)
(それだけで、どうしてこんなにも苦しいのに、幸せなんだろう)
ぎゅっと胸を押さえながら、
私は深呼吸をひとつ霧のように吐き出した。
白い息がゆらりと揺れて――
その向こうで、ルベルが優しく微笑んでいた。




