表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

155/231

冬支度の温度

冬の気配は、目に見えない形で少しずつ家を満たしていた。

窓の外では風が枝を揺らし、時折、冷たい木の葉が舞い落ちる。


エレノアとルベルは、

棚に保存食を並べ、道具の点検をし、

静かに家の中を行き来していた。


ふたりが並んで作業する姿は、

どこか自然で……まるで、ずっと前から“そうだった”かのようだ。


ルベルは、エレノアが手に持つ麻袋を受け取りながら

不思議な満足感に胸の奥が温かくなるのを感じていた。


(……エレノアと冬の準備ができるなんて)


初めての冬。

初めての人間の生活。

初めての“ふたりで過ごす季節”。


それを思うだけで、胸の奥がじんわりと熱を持つ。


エレノアは、冬支度の手順を教えながら

ふと懐かしそうに笑った。


「昔は……師匠と一緒に、こうして準備したんです。

 薪を割って、保存用の薬草を干して……

 雪の日はよく、くしゃみしながら笑われてました」


ルベルは黙って聞いていた。

その表情は穏やかだが、

語られる“過去の誰か”に触れるたび、

胸の奥に小さく黒いものが波紋のように広がっていく。


独占欲。


しかし、それはすぐに薄い温かさに上書きされた。


――エレノアが“今”を語っている。

――その隣に“自分”がいる。


(……師匠。ありがとう)


心の奥で、誰にも聞こえない声が響いた。


自分に魂核を与えてくれた存在。

その核があったから――

自分はこの世界に形を持ち、

エレノアと出逢うことができた。


エレノアが笑うたび、

その想いは強く、深くなる。


エレノアが棚の最上段へ手を伸ばそうとして

背伸びをした瞬間、

ルベルがそっと横から支えるようにして瓶を取った。


「ありがとう、ルベル。助かりました」


その柔らかな声に、

ルベルの胸が静かに満たされる。


幸福。

そしてそれを壊されることへの恐れ。

奪われることへの焦り。


(……エレノアと迎える冬を、誰にも邪魔させたくない)


独占欲が胸の奥でかすかに疼く。


けれど、彼はそれを押し込めた。

エレノアが自分を見て微笑むたび、

その黒い衝動は、ぎゅっと姿を小さくする。


彼女の幸せを奪うようなことだけはしたくない。

けれど、誰にも渡したくない。


そんな矛盾した感情を胸に抱えながらも、

ルベルは静かにエレノアへ寄り添った。


初めての冬は、

どこか懐かしく、どこか切なく、

何よりも――温かかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ