初めて迎える“ふたりの冬”の準備
コンコン、と
木の扉を震わせる控えめなノックが響いた。
「はい、今行きます!」
扉を開けると、
村の女性が大きな籠を抱えて立っていた。
中には乾燥させた保存野菜や、
冬支度用の薪の束、干し果実まで。
「もうすぐ雪が降るからね。
冬ごもりの役に立てばいいんだけれど」
「あ、ありがとうございます……!」
最近は、こうして女性たちが来ることが増えた。
理由は……うん、言わなくてもわかる。
ルベルのせいだ。
その女性の視線も、
明らかに私の肩越しにルベルを探していた。
(……はぁ……)
お礼に薬草と、熱止めの薬をいくつか渡して
女性を見送ったあと。
扉を閉めると同時に、
胸の奥からふぅ、と重い息が漏れた。
「……冬超えの準備、しなきゃ……」
ぽつりと呟いた瞬間。
「手伝う」
背後から返ってきた低い声。
ルベルだ。
静かに、それでいて自然に私の傍へ寄る気配。
その雰囲気だけで、鼓動がひとつ跳ねあがる。
「ルベルは……初めての冬だね」
口にした途端、なんだか胸が温かくなる。
そうだ。
ルベルは、 “この世界で初めての冬” を迎える。
私と一緒に。
ルベルは短く頷いた。
「……エレノアと過ごす初めての冬だ」
その言い方があまりにも真っすぐで、
少しだけ目をそらしてしまう。
窓の外は、もう曇天。
強い風が枝を揺らしている。
あと数日もすれば本格的に冷え込むだろう。
「冬は寒いけど……
ゆっくりできる時期でもありますから」
「なら、いい」
「え?」
「寒くても……不便でも……
エレノアがいるなら、いい」
心臓が跳ねる。
言葉が喉に貼りついて、返事ができない。
最近、ルベルの言葉が
どんどん“あたたかくて、甘い”。
そしてときどき……危険なほど深い。
今日の横顔も、
なんだかいつもより優しくて、
それなのに真紅の瞳の奥に何かが灯っている。
(……この人と、初めての冬を迎えるのか)
そう思った瞬間、
胸の奥がじんわりと熱くなった。
嬉しい。
怖い。
それでも嬉しい。
ルベルの指先が、
そっと私の袖だけに触れて止まる。
触れてはいない。
でも触れられているみたいに、心がざわついた。
(……冬支度、頑張らなきゃ)
静かに息を吐きながら、
ルベルに向けて言葉を継いだ。
「……うん。ふたりで準備しようね」
ルベルの瞳がほんの少し、緩んだ。
その微笑みにまた、
私の胸はあたたかく締めつけられた。




