恋に落ちたと気づく時は
気づけば、ルベルの腕の中にいた。
さっきつまずいて倒れそうになったとき、
彼が咄嗟に支えてくれた──
そこまでは、よくあることだった。
問題はそのあと。
(……離れなきゃいけないのに)
いつもなら、すぐに距離を取るのに。
ルールがあるから。
危険があるから。
それでも私は──離れなかった。
理由は分かっていた。
いや、分かりたくなくて蓋をしていただけだ。
胸が苦しくなって、
どくどく脈が痛いほど跳ねて、
腕に触れた時の温度が、心の奥まで染み込んでくる。
(あ……私……ルベルが好き……なんだ)
以前、
“ルベルのこと好きだな”
と思った時は、
それは家族のような、召喚士としての信頼だと思っていた。
でも今は違う。
触れられて、離れたくなくて、
離れないことを選んだ自分がいた。
「エレノア……」
名前を呼ぶ声が、
甘く掠れて震えている。
見上げると、
ルベルの瞳の色がいつもより深くて熱い。
(あ……気づかれてる)
私が彼を見てしまった想いを。
ルベルの喉がひくりと動く。
呼吸も不自然なくらい荒い。
(いけない、これ以上は──)
そう頭で分かっているのに、身体が動けない。
“触れたい”
その欲が、ルベルの顔にありありと出ていて、
その熱に包まれたいと思ってしまう。
心臓の音がうるさくて、自分の声が出ない。
ルベルは、ゆっくり、苦しそうに言った。
「……ふ、……はぁ……
触れて……いいか? エレノア」
声が低い。
甘い。
限界ぎりぎりで震えている。
息が止まりそうだった。
嫌じゃない──
むしろ、求めてしまっている自分がいる。
だから私は、小さく、小さく──
(……うん)
コクン、と頷いた。
その瞬間、
ルベルの瞳が大きく揺れた。




