甘さに火がつく
ルベル視点
湖でのピクニックから、
数日が経った。
あの日の景色が、まだ胸に残っている。
陽の光を受けてきらきらと揺れる湖面。
風に揺れるエレノアの髪。
「幸せですね」と微笑んだ横顔。
あれは――
確かに、俺の中で“何か”を決定的にした日だった。
エレノアと過ごす時間が、
ただ嬉しいだけでは済まなくなった。
もっと触れたい。
もっと側にいたい。
もっと……もっと。
その願いは、
日に日に強くなる一方で――
そして今日。
村に現れた女性たちが、
家に押し寄せてきた。
彼女たちは皆、
俺に会うためだけにやってきた。
理由はわかっている。
フードが外れたせいだ。
でも――
本当に衝撃だったのはそこじゃない。
エレノアの表情だった。
いつも穏やかな彼女が、
村の女性たちの声が重なるたびに
小さく眉を寄せる。
唇がむすっと尖る。
ため息が増える。
視線がどこか落ち着かず、
俺のほうをちらりと見ては、
すぐに逸らす。
……可愛かった。
胸が熱くなる。
息が詰まりそうになる。
嬉しすぎて――
笑いそうになった。
エレノアが、嫉妬 してる。
その事実だけで、
体の奥のどこかが、甘く疼いた。
「エレノアって、そういう顔するんだね」と言った時、
彼女が真っ赤になって否定したのも愛おしい。
俺は、知ってしまった。
エレノアは俺を――
失いたくないと思ってくれているのだと。
その瞬間から、
胸の奥に眠っていた獣のような本能が
ゆっくり、静かに起き上がった。
エレノアは俺を選んでくれるかもしれない。
だけど、
もし他の誰かに奪われる可能性があるなら――
(……そんなのは、嫌だ)
気付けば、
彼女の傍へ踏み出していた。
触れそうで触れない距離でも
体温が、驚くほどあたたかくて。
「他の女なんて見ないよ」と囁いた声は、
自分でも驚くほど甘くて低かった。
エレノアが俺に嫉妬してくれた事実は、
胸いっぱいに広がり、
嬉しさが溢れそうで。
けれど同時に――
胸の奥で黒いものがふつふつと息づいていく。
(もっと……俺だけを見てほしい)
(俺だけを想ってほしい)
(エレノアの隣は……俺だけでいい)
その欲は、
湖の穏やかな風には似つかわしくないほど静かで、
けれど確かな熱を帯びていた。
エレノアが、
俺の名前を呼ぶたびに。
俺の核に触れてくれるたびに。
笑ってくれるたびに。
本能は強くなる。
――あの日の湖より、
ずっと深く。
ずっと危うく。
そして今日の嫉妬が、
その本能に火をつけた。
(エレノア…エレノア…
もっと、もっと……俺を見て……)
そう願わずにはいられない。




