風が暴くもの
村への買い出しは、
いつの間にか“ふたりで行くのが当たり前”になっていた。
ボッチだったエレノアが、
背の高い美丈夫を連れて歩く姿は――
村ではすでに
「仲のいい新婚夫婦」
として定着しているらしい。
エレノア(いやいやいや……誰が……!)
訂正しようとしても、
ルベルは嬉しそうに隣を歩くし、
村の人たちは微笑んで受け流すしで、
もはや放置するしかなかった。
今日は風が強い。
秋が終わりに近づいているのがわかる。
ルベルのマントも、エレノアのスカートも、
風に煽られて揺れ続けていた。
そんな時――
ゴウッ!!
突然、横から巨大な突風が吹き抜けた。
エレノア「わっ――!」
体がふらつくより早く、
ルベルの腕がすっと腰を支える。
ルベル「エレノア、大丈夫……?」
エレノア「だ、大丈夫ですけど……!」
そう答えながら顔を上げると――
はらり。
ルベルのフードが風にさらわれ、後ろへめくれた。
エレノア「あ、」
アッシュブラウンの髪が太陽を受けて輝く。
深紅の瞳が驚いたように瞬きをする。
整いすぎた顔立ちは、まるで物語の中の精霊の青年のようで。
それを見た村の女性たちは――
「きゃあああああああああ!!」
「なにあの顔っ……!?」
「え、だれ!? 新婚の旦那さま!?」
「エレノアさん隠してたわね!?」
瞬時に黄色い悲鳴で包囲。
エレノア(ひっ……!)
肩をすくめる。
ルベル(????)
本気で状況が理解できていない顔で、
ただエレノアの袖をそっと掴んで離さない。
エレノア「い、いきましょうルベル! ほら、納品!」
ルベル「……うん?」
混乱したまま、ふたりは逃げるように
いつもの商店へ飛び込んだ。
扉を閉めると、奥から店主夫婦が顔を出す。
「あらエレノアちゃん、いらっしゃ――」
夫婦そろって、
フードが外れたままのルベルを見て固まった。
店主「…………ああ、これは」
奥さん「そりゃあ、フードで隠すわよね……」
エレノア「やっぱりそう思いますよねぇぇぇ!!」
奥さんが苦笑しながら小声で囁く。
「エレノアちゃん……夫さん、綺麗すぎるわよ……
そりゃあ村の娘たちが騒ぐわけだわ」
エレノア「ち、違いますから!!!」
ルベルはここでも状況が読み取れず、
エレノアの影にぴたりと寄り添い、
ルベル「……エレノア、隠れたほうがいい?」
エレノア「隠れるのは私じゃないです!! あなたです!!」
店夫婦(苦笑)
いつもより賑やかな納品となった。




