扉が閉まる音がして
扉が閉まる音がして、
ノワールさんの気配が完全に遠ざかった――
その瞬間だった。
「……エレノア」
名前を呼ばれた声が、
いつもよりずっと低くて、甘くて、
胸の奥をひどく揺らした。
え……近い。
ち、近すぎる……!
気づけば背中が扉に預けられていて、
逃げ場がどこにもない。
どうしよう……
どうしてこんな……!
「触れていい……?」
耳元すぐで囁かれ、
心臓が跳ね上がった。
「えっ!?」
必死に言い返したつもりなのに、
声がひどく裏返ってしまって、
余計に恥ずかしい。
ルベルの真紅の瞳が
私をじっと見つめる。
あ……瞳孔……開いてる……
怖くはない、けど……
なんか、すごく……熱い。
「……あいつは、もういない」
低い声。
触れてないのに、
体の奥が震えた。
そんな言い方……
反則でしょ……。
「~~~~~~っ」
声にならない声が喉に詰まる。
だって近い、近すぎる。
呼吸するたびにルベルの匂いがする。
やめて……
その瞳で見ないで……
心臓が……おかしくなるから……。
ルベルは私の反応を見て、
苦しそうに、甘く目を細めた。
「今、触れたら……
きっと、止まれない」
さっきまで怒っていたのに――
どうしてこんな声で言うの。
ずるいよ。
本当にずるい。
胸がきゅうっと締めつけられて、
呼吸の仕方がわからなくなる。
触れられたら、
私……どうなっちゃうの……?
いや、違う。
触れられなくても……十分に……。
顔どころか耳の裏まで熱くなって、
私はただ――
ルベルの真紅の瞳から目をそらせなかった。




