静寂と火花と、さりげない尋問
朝食の時間になった。
三人はテーブルに座ったものの——
誰もしゃべらない。
パンを置く音、カトラリーが触れる音、
それだけがやけに大きく響く。
エレノアはパンを千切る手が震えていた。
(いやいやいや……なんでこんな空気なの……?
ふたりとも……視線が怖い……)
ルベルは無表情でスープに口をつけているが、
紅い瞳がたびたびノワールを鋭く横切る。
(エレノアの隣は……俺の席だったのに。
なんでノワールが普通に座ってる?
どけ……とは言えない……エレノアが見てるから……)
静かな怒りが表面張力みたいに張りつめている。
一方ノワールは涼しい顔だ。
(……彼の仕草。
どう見ても“長く傍にいた者”の距離感だな。
だがエレノアの様子を見る限り……
本当に、何者なんだ?)
観察しながら淡々とパンを齧る。
エレノアは泣きそうだった。
(お願い……パンを食べてるだけで
なんでこんな緊張するの……?
味……ぜんぜん分からない……)
そんな地獄のような沈黙が五分ほど続いたとき——
ノワールが、事件を起こした。
「そういえば、ルベル」
突然声をかけられて、
ルベルの瞳がわずかに揺れる。
「君は——どこでエレノアと知り合ったんだ?」
エレノアの手が止まる。
パンが落ちそうになる。
(えっ……えっ……
それ……言えない……
禁術って言えない……!!)
ルベルの喉がひくりと動く。
(来た……! 絶対わざとだ……!)
(俺のことを探ってる……!)
(……なのに、答えられない……!)
ノワールは微笑んでいるが、
その目には静かな探りがあった。
「以前は聞けなかったからな。
気になっていて」
エレノアは固まったまま動けなくなる。
(ど、どうしよう……
言えない……どう言えば……
うわああああああ)
ルベルは紅い瞳を伏せ、
ほんの少しだけ、苦しそうに息を吐いた。
何かを答えようとした、そのとき。
——エレノアの椅子がガタン!と鳴った。
「え、え、えっと! あのっ!
片付けっ!先に片付けしないと!
ね!?」
逃げた。
ルベルもノワールも、
彼女の背中を見つめて黙り込む。
気まずさは解消されず、
むしろ倍になって増えた。
朝食は、結局まともに終わらなかった。




