朝の悲鳴と、廊下のルベル
カーテン越しの光が、
ぼんやりと部屋を照らす。
「……ふぁ……今日で整理も終わるんだっけ……」
眠い。
眠すぎる。
昨日の夜は、ルベルとノワールの空気にあてられて
ぜんぜん寝つけなかった。
(……いや、正確には。
ドアの向こうにルベルの気配があった気がして……
気になって眠れなかったんだけど……)
思い出しただけで心臓がドキッと跳ねる。
とにかく、顔を洗って目を覚ませば——
「よし、行こ……」
ギィ、と扉を開けた瞬間。
「……え?」
視界の下の方に、
妙に見覚えのある“赤い瞳”があった。
「…………」
ルベルが、
廊下に座り込んだまま
壁にもたれて眠っていた。
完全に、
完全に、
私の部屋の前。
「ひっ……!?」
思わず声が裏返った。
「な、なんでここで寝てるのルベルッ!?」
悲鳴に近い声で叫ぶと、
ルベルの睫毛がピクリと揺れる。
ゆっくりと目が開き——
真っ赤な瞳が私を捉えた。
「……エレノア……」
寝起きの低い声。
反則級に甘い。
「ち、ちがっ……! ちがうの!
なんでここに!? 寒かったでしょう!?
ていうかどうして!? どういう状況!?」
混乱で語彙力ゼロ。
ルベルは、
ぼんやりしながらも微笑んだ。
「……エレノアが……
怖くないように……ここにいた」
「こ、怖く……っ!?
わ、私は別に、怖くなんて……!」
否定しかけて、言葉が止まった。
(昨日、確かに……ちょっと、怖かった……
ノワールとルベルのあの空気とか……
どっちかが爆発しそうとか……
いや、あれは“怖い”とは違うけど……!)
でも。
そんなの、言えるわけない。
「べ、別に! だ、大丈夫だったし!!
廊下で寝る必要なんてなかったのに!」
ばたばたと手を振る私に、
ルベルはどこか安心したように細く息を吐いた。
「……エレノアが無事なら……それでいい」
その表情があまりに優しくて、
心臓の音が跳ねた。
(……いやもうほんと無理……近すぎる……)
そのとき。
「今の悲鳴は——エレノア?」
階段のほうから聞こえた
聞き慣れた落ち着いた声。
ノワールだ。
「ひっ……!」
エレノアの頭が真っ白になる。
ルベルは、
ほんの瞬間だけ表情をひどく冷たくした。
(あっ……空気がまた死ぬ!)
私の朝は、
こんなふうに始まった。




