扉の向こうに、いる
布団に入って、
目を閉じて、
深呼吸も何度もして――
……それでも眠れなかった。
(ど、どうして……)
心臓だけが妙にうるさくて、
さっきのルベルの言葉が頭の中でリピートしてしまう。
――「一緒に寝たい」
思い出しただけで、布団の中で転げ回りそうになる。
(む、無理……! あんな至近距離で……
あんな、低い声で……
しかも“本気”だった……)
枕を抱きしめてじたばたする。
そして――気づく。
(……あれ?)
扉の向こうに、微かに
“気配”がある。
気配というか……
呼吸の間の、あの静かで甘い魔力の揺れ。
(ルベル……?
まさか、まだ廊下にいるの……?)
寝室の扉は閉じている。
けれど、すぐその向こうに何かが立っている感じがする。
この感覚は、ずっと一緒に暮らしてきたからわかる。
ルベルがそばにいるときの、
ほっとするような、胸が締めつけられるような――不思議な気配。
(そんな……はず……)
だってノワールの気配もするはずなのに。
さっき階段のところで声をかけてきたから、
てっきり隣の客間へ行ったと思ってたのに。
(……今の気配は、ルベルだけ)
胸の奥がじんわり熱くなる。
(ノワールさんがいなかったら……
さっき……一緒に寝てた……?)
そこで、思考が止まり、
次の瞬間――
「~~~~~~~ッ!!」
枕で顔を覆い、全身を布団に包み込んだ。
(な、何考えてるの私!!
一緒に、なんて……だめ!
だめだめだめ!!)
布団の中でじたばたしながら、耳を澄ます。
……まだ、扉の向こうから離れる気配がない。
まるで
“見守っている”
あるいは
“待っている”
そんな穏やかだけど切ない気配。
(どうしてそんな……
そんなの……寝れないよ……)
でも、不思議と怖くはなかった。
むしろ――
少し、安心してしまう。
(……ほんとに、私……どうしたんだろう)
胸の痛みと、
扉の向こうの存在が、
眠気を完全に奪っていく。
そして、ぽつりと心の中で呟く。
(さっきの…ルベルの言葉……
本当だったのかな……)




