救いの音
部屋の前。
お風呂上がりでまだ頬が熱いまま、私は戸惑っていた。
ルベルがすぐ目の前。
息が触れるほど近い。
「……エレノア」
低く甘い声が落ちてきて、
心臓が跳ねる。
「今夜……一緒に寝たい」
「っ……!?」
至近距離すぎて、思考が止まる。
どうしよう。
だめ。
でも、断り方が……。
目のやり場に困るほど、真っ直ぐで。
見つめられると逃れられなくて。
(ち、近い……!
あの顔でそんな事言わないで……!!)
喉が詰まって声が出ない。
そんな時だった。
――ミ……ミシッ。
階段の木が、ゆっくり軋む音。
誰かが上ってくる。
(え……まさか……)
そして聞こえてきた落ち着いた声。
「エレノア?」
「わっ!! わぁー!!
お、おやすみなさい!!」
私は反射的にルベルから飛び退き、
慌てて自室の扉に手を伸ばした。
階段の上に姿を現したノワールは、
昼間よりもずっと鋭い目をして、
こちらの様子を観察するように立ち止まった。
ノワール「……どうした?」
エレノア「なんでもっ! ないですっ!!
あのっ、おやすみなさい!!」
慌てすぎて語尾が裏返る。
その背後で――
ルベル(……チッ)
舌打ちが、小さく、けれど確かに聞こえた。
ノワールの目だけがわずかに細められる。
空気が、一瞬で凍る。
二人の視線がぶつかる。
ノワールは無言のまま、階段の途中で立ち止まり、
ルベルは微動だにせずノワールの視線を受けている。
殺気はない。
でも、
互いの存在そのものが相手を牽制しているような、
そんな張り詰めた空気。
(や、やだ……この空気……!)
エレノア「お、おやすみなさいっ!!」
あまりの気まずさに、
私はほぼ逃げるように部屋へと飛び込んだ。
扉を閉めるほんの直前、
二人の睨み合いの気配が背中を刺す。
(……どうしよう。
本当に……この二人……)
涙目になりながら、
私はベッドに倒れ込んだ。
今日も眠れない予感しかしない。




