一緒に寝たらダメ?
お風呂も終えた。
ノワールにも「おやすみ」と言った。
今日は色々ありすぎて疲れたし、
もう私は寝たい。
ひたすら寝たい。
だから廊下を歩きながら何度も唱えた。
(寝よう。もう寝よう。はやく寝よう……)
今日だけは、布団が救世主に見える。
なのに。
寝室へ向かう私の後ろを――
ぴったり一定の距離でついてくる影がある。
振り返る。
やっぱりルベル。
「……なんで付いてくるの、ルベル?」
「…………」
返事がない。
いつもの無表情に近いけど、
どこか“甘さ”みたいなのが滲んでいる。
近い。
さっきから距離が近い。
「え、あの……もう寝るだけだよ?」
「……知ってる」
「だったら、なんで……?」
ルベルは一歩だけ近づいた。
私の肩に落ちていたタオルを、
そっと取って、自然な仕草で直してくれる。
優しい。
でも……なんかおかしい。
その動きがいつもよりゆっくりで、
どこか“離れたくない”って言ってるみたいに見える。
「……今日は、疲れたろ」
声が低い。
全体的に甘い。
さっき料理中に見せた不機嫌さは影も形もない。
けれどこの“甘さ”が逆に怖い。
「まぁ、疲れたけど……」
「……エレノア」
呼ばれた瞬間、胸がきゅっとなる。
視線が絡む。
近い。
ほんとに近い。
頬に触れられそうな距離で、
ルベルが少しだけ顔を伏せる。
「……今日は、一緒に寝たらダメ?」
「――っ!?」
ダメ、と言わなきゃいけないのに、
声が出ない。
ルベルは続けた。
「……ノワールと、ふたりで話してた」
あ。
「え?あ、えっと……」
「楽しそうだった」
「え、いや、その……!」
「……嫌だった」
ぽつり。
まるで幼い子供みたいに、
けれどどこか危うい静けさで言う。
「……少しの時間でも、エレノアを取られたくない」
胸の奥がぎゅっと掴まれる。
これ、
甘えているようで――
どこか、ぞくりとするほど“重さ”がある。
(やばい……
今日のルベル……いつもと違う……)
「る、ルベル……あのね、私は――」
言いかけた時。
ルベルが、そっと私の手を握った。
ほんの少し震えていた。
「……お願い。今日は一緒がいい」
その声は切実で、
甘くて、
だけど奥に“何か”が渦巻いている。
彼の紅い瞳が私をまっすぐ捉える。
この瞳に、
なんて答えればいいのか。
心臓が痛いくらいに跳ねた。




