好きなの?
静かな空気。
暖炉の火がぱちりと弾けただけで、二人の距離がやけに意識される。
ノワールがカップを置いた音が、妙に大きく響いた。
「いいタイミングだから……聞いておきたいんだけど」
エレノアは、ぴくっと肩を跳ねさせた。
ノワールは柔らかく笑んだまま、
しかし目だけがすこしだけ探るように細くなっている。
「彼……ルベルとは、どんな関係なのかな?」
「っ……!」
喉がきゅっと詰まる。
頬が熱くなる。
目のやり場がわからない。
「え、えっと……あの……」
もじもじ……もじもじ……
その反応を、ノワールは
“あぁ、なるほど”と言わんばかりに見つめていた。
「……ふむ。そうか」
そして、さらりと。
「好きなんだな」
「す、す、す、すき!?」
心臓が跳ね上がり、声が裏返った。
ノワールは微笑を深め、
少しだけエレノアに身を寄せるようにして
まっすぐ瞳を覗き込んだ。
「好きじゃないのか?」
その目は、逃がす気がない。
吸い込まれそうで、まともに息ができない。
「じゃあ、俺の――」
ノワールがなにかを言いかけた、その瞬間。
――ガッシャアアアンッ!
台所で、大きな金属の音が響いた。
エレノア「え!? だ、大丈夫!? ルベル!?」
椅子を蹴るようにして立ち上がり、
慌てて台所へ駆け込む。
残されたノワールは、
わずかに目を伏せて、ひとり苦笑した。
「…………甘酸っぱいな」
少年の独占欲も、
彼女の素直さも、
全部、わかりやすくて面白い。
ノワールは紅茶を飲み干し、
ゆっくりと立ち上がった。
(さて……ここからが見ものだ)




