落ちた沈黙のあと
(ノワールがルベルを見て、わずかに眉を寄せた……?)
空気が、ぴたりと止まった気がした。
ルベルの指先が私の袖をそっとつまむ。
その仕草はいつも通りで、あたたかくて……でも、
ノワールの視線はどこか探るようで。
(……え、ちょっと待って。なんでこの二人……?)
心臓が落ち着かない。
ルベルはノワールをまっすぐ見ている。
静かに、じっと。
言葉に出してはいないけれど、あれは――
(牽制、してる……よね?)
普段の柔らかいルベルとは違う。
ふわっと甘い魔力の揺れが、わずかに硬く感じる。
ノワールはといえば、
いつもの落ち着いた微笑を崩してはいないのに、
目だけが妙に鋭い。
(どうしよう……)
胸の奥がざわざわして、
息の仕方まで変になってくる。
別に悪いことしてるわけじゃない。
ただ三人で作業してるだけなのに――
どうしてこんなに空気がぴりつくの。
ノワールが静かに口を開く。
「エレノア、そこの箱は重いだろう。運ぼうか?」
「え、あ、だ、大丈夫……! る、ルベルが……」
言いかけた瞬間。
ルベルがそっと一歩前に出て、
私の背を庇うような位置に立つ。
その動きは綺麗で自然なのに、
ノワールは一瞬だけ、目を細めた。
(ま、また……っ)
耐えきれず、私は両手を上げた。
「ちょっ……ちょっと二人とも、仲良く……というか、普通でいて……!」
声が裏返ってしまった。
顔も熱い。恥ずかしい。
ノワールが苦笑する。
「……ごめん。つい」
ルベルは小さく首を傾げて、
「……ごめん、エレノア」と低く囁く。
その声がやたら甘くて、
余計に心臓がドキドキする。
(な、何なの……もう……!)
二人の視線が私に向いて、
空気が一気にゆるむ。
だけど。
その奥に潜んだ緊張だけは消えていなかった。
(……本当に、どうしよう)




