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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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夜の気配、待ち受けるもの

ルベル視点

夜の廊下はひどく静かだった。

屋敷の魔力脈流マナラインは眠るように落ち着き、

外の風すら音を潜めている。


……なのに。


ルベルは、寝台の上で目を閉じたまま動けずにいた。


(……まただ)


かすかに鼻をつく鉄の匂い。

魔力が研ぎ澄まされた時にだけ感じる、

冷えた刃のような“違和感”。


ノワールの部屋から――

微弱な魔力の揺れが漏れている。


本来なら、気にする必要はない。

エレノアが安心して眠れるよう、

屋敷内の警戒はルベルの役目ではあるが――


(……あいつの魔力、いつもと違う)


柔らかく抑えられた紳士的な魔力ではない。

底に沈んだ渦のような、

静かで深い気配。


そして何より。


(エレノアの魔力に“似ている”)


ルベルの胸がわずかにざらつく。


似ているというより、

ノワールがそれを“探っている”ように感じた。


それが、理由もなく腹立たしい。


そっと影を揺らし、部屋を抜ける。


エレノアは深い眠りの中。

魔力は温度のようにふわりと安定していて、

彼女に危険はないとすぐわかる。


(……なら、あいつだ)


廊下に出た瞬間――

ノワールの部屋から、微かな魔術反応。


空気がひりついた。


まるで“呼応”するように、

ルベルの影が無意識に膨れ上がる。


(何を調べてやがる)


ただの魔術師なら放っておく。

しかしノワールは違う。


彼は教会の魔術師。

封印術も扱える。

そして――エレノアに好意を持っている。


その事実だけで、

ルベルの中の魔力はざわりと荒れた。


だがエレノアに叱られたばかりの身。

暴走はしない、と決めていた。


(……確かめるだけだ)


扉の前に立つ。

ノワールの魔力が静かに揺れている。


耳を澄ますと――

苦い溜息と、低く押し殺した声。


「……これは、放置できない……」


ルベルの眉が僅かに動く。


(これは……?)


ノワールは思っていた以上に深くまで踏み込んでいる。

しかも、それは“エレノアに関わる情報”だ。


影が床に薄く伸び、扉の隙間へと滲む。


ただし、開けない。

エレノアに怒られるからではなく――

“ノワールの意図を見極めるため”。


(あいつは危険じゃない……はずだ)


だが、エレノアに近づくものすべてが、

安全とは限らない。


ルベルは影を収め、静かに息を吐いた。


(……明日、直接聞く)


そう決めて部屋へ戻ろうとした――その瞬間。


ノワールの魔力が、一瞬だけ“跳ねた”。


まるで何かに触れたように。

そして次の瞬間すぐ静まる。


だが、その跳ね方に覚えがあった。


――エレノアの魔力が揺れたときの反応に、似ていた。


胸の奥で何かが低く唸る。


(……やっぱり、あいつは何か知ってる)


明日、聞く。

けれど――


“あいつがエレノアに関わる危険を察しているなら、

 俺はそれより先に知る必要がある。”


ルベルは静かに扉を見つめた。


ノワールの影越しに見えるものは何もないのに――

胸の底で、獣の本能だけが強く騒ぎ続けていた。


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