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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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封の裏側にあるもの

ノワール視点

夜更け。

屋敷の静寂は、魔力の薄い霧のように肌へまとわりつく。


ノワールは客間の机に置いた小箱を開け、

再び封印された魔術具を手に取った。


――前に感じた、あの“呼ばれる気配”。


あれが気になって仕方ない。

だが、今回は違う目的があった。


(呼ばれた理由を……もう少し自然に見極めたい)


ノワールは、あえて魔力を強く流さない。

ただ掌に乗せ、重さと質感だけを確かめる。


すると――


魔術具は反応しない。

昼間のような震えも、呼応もない。


(……呼んでいるわけじゃないのか?)


ノワールは目を細めた。


昼間、自分が“触れた瞬間”に反応した。

だが今は、沈黙のままだ。


考え方を変える。


(昼は、偶然エレノアの魔力が近くにあった……それで反応した?)


それは単純すぎる推測。

だが、もうひとつ仮説が立つ。


(もしかして……エレノアの魔力の気配“だけ”を拾っている?)


その程度なら、古い魔術具でもあり得る。

魔力に敏感な遺物は、“特定の魔力”に反応しやすい。


けれど――

ノワールはすぐに首を横に振った。


(違う。そんな単純なものなら封印を二重にする必要はない)


昼間は感じ取れなかったものが、

今、この静かな夜にはっきりと漂っていた。


――箱の内側から、微かに流れ出す“欠片の記憶”。


ノワールは眉を寄せる。


(……残留思念?)


魔術具が長く存在すると、その内部に

・使った者の癖

・触れた者の魔力の揺らぎ

・封じた者の“目的”

が蓄積されていく。


ただ、それがここまで鮮明に残るのは珍しい。


指先で表面をなぞる。

すると、ノワールの脳裏に“映像”にも似た感覚が走った。


――白い光。

――ひどく焦った呼吸。

――封を閉じる手が震えている。


(……これは)


レーヴェン師のものではない。

彼は封術が得意ではあるが、手の震えなど残す人ではない。


なら、誰が?


ノワールは深く息を吸った。


(……エレノアではない。

 あの子は封印の際、魔力の揺らぎをここまで露骨には残さない)


もっと経験の浅い者。

感情の波が激しい者。

“追われるように封を急いだ者”。


ノワールの推測は、そこでようやく自然に方向を変える。


(――これは、“逃げ込むように封じられた魔術具”だ)


遺物が怯えているように見えた理由が、ようやく腑に落ちた。


封じた者が怯えていた。

だから魔術具もその感情を吸い込み、今も震えているだけ。


呼んだわけじゃない。

ただ、怯えた記憶が反応しただけだ。


……だが。


(では……エレノアの魔力にだけ反応する理由は?)


ここが最大の疑問だった。


ノワールは昼間の出来事を思い返す。


*棚の奥に隠されていた

*埃も被らず、最近触れられた痕跡

*封印の内側に、微量だが“繊細な魔力の揺れ”

*自分に触れた瞬間の呼応


全てを繋げると――

浮かぶのは、ひとつの仮説。


(……エレノアの魔力を“探している”?)


魔術具そのものが、というより、

封じた“誰か”の残した思念が。


それは彼を安堵させたわけではない。

むしろ背筋を冷たくする。


なぜ彼女の魔力だけを探す?

誰が?

何のために?


ノワールは魔術具をもう一度箱に戻した。


(――この封印は、教会に持ち帰って解析する必要がある)


彼は椅子に深く座り直し、

小さく息を吐いた。


そして不思議なことに、

昼間は気づけなかった“矛盾”が、夜になって浮き上がる。


(レーヴェン師は、こんなものを放置する人じゃない)


あの師なら、

危険物は密閉し、魔術反応の出ない部屋へ移す。


棚の奥に“隠した”のではなく――

“時間がなかった”か、

“封印の主が別にいた”か。


どちらも、エレノアには伝えられていない。


ノワールは額に手を当て、低く呟く。


「……レーヴェン師、あなたはいったい何を遺したんです?」


その夜、

ノワールは遅くまで明かりを消せなかった。



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