封印魔術具に触れた者
棚の前に立ったノワールは、
並ぶ魔術具をゆっくりと検分していた。
古い杖の破片、
魔法陣の欠片、
封の甘い呪具、
小瓶に入ったままの触媒。
(レーヴェン師は……
相変わらず整理が苦手だったな)
苦笑しながら手を伸ばしたそのとき――
ひどく微細な“呼ぶ気配”を感じた。
(……ん?)
棚の奥。
布をかぶせられている小さな箱。
ノワールはゆっくりと手を伸ばす。
指先が箱に触れた瞬間――
ビリッ。
ほんの一瞬だけ、
エレノアの魔力の匂いがした。
(……エレノアの……魔力?
なぜここから……)
箱を開ける。
中には、
封印術が施された小さな魔術具。
形は曖昧で、
しかし目を引く妖しさを内包している。
(これは……見たことがない)
手に取った瞬間――
まるで“喜んだ”ように魔力が震えた。
(……呼ばれた?
俺が……?)
ノワールは眉を寄せる。
これは、
ただの危険物ではない。
何かの“残滓”。
誰かの“思念”。
あるいは……
(エレノアが関わった封印……だな)
ノワールはすぐに悟った。
(これは……俺が預かったほうがいい)
エレノアが危険に巻き込まれる可能性がある。
教会に持ち帰り
正しく調べ、
完全な封印か破棄が必要だ。
ノワールは一度だけエレノアを振り返った。
彼女は別の魔術具を手にしている。
気づいていない。
(昔のままだ……
危険を前にしても、気づく前に誰かが守りたくなる)
思わず微笑み――
その表情を見たルベルの魔力が
ひどく、冷たく波打った。
(やはり……あいつは只者じゃない)
ノワールは胸中で小さく息を吐いた。
そして――
封印された魔術具は、
静かにノワールの手の中へと渡った。




