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禁術で呼んだ“理想の相手”は、人型魔獣の執着愛でした  作者: ChaCha


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静かに噛み合わない茶の時間

ルベル視点

ノワールが家へ入った瞬間から、

俺の中の本能はずっと低く唸っていた。


エレノアの魔力が、

“懐かしさ”で柔らかく揺れたからだ。


あれは危険だ。

甘い揺れだ。

俺以外に向けるのは……嫌だ。


だから――


茶を淹れるのはエレノアだけにした。


湯気の立つハーブティーに

砂糖を二つ、いつものように溶かす。


「エレノア。

……砂糖、二つ入れたよ」


そっと差し出す。


エレノアは嬉しそうに小さく微笑んだ。

その笑みだけで胸が温かくなる。


だが。


横でノワールがこちらを見ていた。


まるで

“当然自分にも出てくるものだと思っていた”

そんな目。


出す気はなかった。


俺の位置はエレノアの隣で、

ノワールの位置は“外側”だ。


その区別は、

本能がはっきり理解している。


しかし――

エレノアが困ったように言った。


「ルベル……ノワールの分は?」


俺は無表情のまま答えた。


「……必要あった?」


エレノアの肩が跳ねる。


「えっ!? あるよ!

し、しし失礼なことしちゃダメ……!!」


叱られた。

分かっている。

分かっているが――


(これは……“主”を守る線引きだ)


俺はノワールを客と認めていない。


エレノアの横に立つものとして、

“距離を置くべき相手”と判断しただけ。


だが。


ノワールは少し微笑んだ。


その微笑みは、

まるで昔なじみのような、

柔らかい色をしている。


そして――

軽やかな声で言った。


「エレノアが入れたお茶が飲みたいかな」


カチッ。


胸の奥で、

小さな音が鳴った気がした。


(……今、なんと言った?)


“エレノアが淹れたものがいい”


つまり――

俺ではなく、エレノアが作ったものを求める

ということ。


その一言が

静かに、鋭く、俺の本能を刺激した。


(エレノアのものを……欲しがるな)


言葉にできない“線”がある。

無意識に守っている“場所”がある。


そこに踏み込まれた気がした。


エレノアは気付いていない。


「ノ、ノワール……!

そんな……昔みたいにお願いしても……!」


頬を赤くして、慌ててハーブを手に取る。


懐かしさで、

優しさで、

エレノアはくるくる動く。


それを見て――

胸がざわ、と揺れた。


(……エレノア……

なぜそんな表情を見せる……?

俺には……見せなかった、色……)


ノワールの方を見る。


ノワールは柔らかく微笑んだまま、

俺と目が合うと一瞬だけ

“温度が消えた”。


(敵意は……ない……

でも、立ち位置は……はっきりしている)


エレノアの隣を狙う者の目。


それを悟った瞬間、

俺の内側の獣が静かに牙を研ぎはじめた。


――この男、嫌いだ。


その感情を、

言葉にせず胸の奥で噛みしめた。


エレノアの手から湯気がのぼる。

ノワールが微笑む。

俺の魔力が低く唸る。


三人が同じ部屋にいるだけで、

空気がきりきりと張り詰めていった。

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