113 パートナーと待ち合わせ
成り行きでジェマと庭園にやってきたベアトリスだったが、彼女もここでマキシミリアンと待ち合わせしているらしい。
普段静かなこの場所は学園寮から近いこともあって、パートナーや友人と待ち合わせする生徒の姿がちらほら見受けられた。生徒の数が増えてきた頃にケイティも庭園にやって来て、三人並んでベンチに腰かける。
因みに、ここはベアトリスがリリアンにアルバートと別れるよう言われた場所でもある。だが、今のベアトリスはそれを覚えていない。
時折感じるそよ風の中、ベアトリスは穏やかな気持ちでケイティたちとお喋りをしながらアルバートを待つ。
そうして、ポツポツとパートナーを見つけたペアから順に庭園を去っていく。ベアトリスたちのパートナーは全員が生徒会に所属しているためか、まだ現れない。
「生徒会の皆様はパーティー当日もお忙しいなんて、大変ですわね」
ケイティがポツリと溢した。
「えぇ。皆様が準備して下さったお陰でこうして当日を迎えられていると思うと、感謝で一杯です。今日は目一杯楽しみましょうね!」
「そうですわね! わたくしたちにとっては学園で過ごす最後の行事ですもの!」
ベアトリスの言葉にジェマが頷くと、「ケイティ嬢ー!」とトレヴァーの声が聞こえてくる。
三人揃って声の方を振り返ると、トレヴァーが駆けてくる姿が見えた。そして、その後ろにはマキシミリアンとアルバートの姿がある。
遠目からではあるが、ベアトリスはアルバートに目を奪われた。アルバートはベアトリスより濃い色合いの青を纏っていた。ベアトリスとアルバートが並べば、誰が見てもお揃いの衣装と一目で分かる色だ。
「ベアトリス……」
ベアトリスの直ぐ傍まで近付いたアルバートもまた、ベアトリスのドレス姿に見惚れていた。
自分が贈ったドレスを想いを寄せる婚約者が想像以上に美しく着こなしている。
周囲にはケイティやジェマとそのパートナー以外にも生徒はいる。それなのに、まるで二人きりの世界に入り込んだように、ベアトリスとアルバートは見つめ合ったまま黙り込んでいた。
そんな中、最初に口を開いたのはアルバートだった。
「ベアトリス、綺麗だ。とても似合っているよ」
その言葉でベアトリスの胸には幸せな気持ちが溢れてくる。
「ありがとうございます。アルバート様もとてもかっこいいです!」
「!」
ベアトリスにかっこいいと言われ、アルバートも内心では気持ちが舞い上がっていた。
互いに褒め言葉を発し、赤面し合うベアトリスとアルバート。待ち合わせを果たし、あとは会場に向かうだけのケイティやジェマたちは、その様子をそっと見守る。
幼い頃から婚約していた二人だが、その反応は付き合いたてのカップルのようだ。
ケイティとジェマは「きゃー!!」と叫びだしたい気持ちを我慢して、心の中で悲鳴を上げる。対する、トレヴァーとマキシミリアンは普段目にしないアルバートの照れた様子に、“珍しいものを見た”と言いたげな顔をしていた。
そんな後輩たちの様子にアルバートはようやく気付いた。そして、一つ咳払いをすると、ふわふわとした思考を切り替えて、ベアトリスに手を差し伸べる。
「行こうか」
ベアトリスは「はい」と頷いて、その手を取った。
◇◇◇◇◇
ベアトリスたちがパートナーと揃ってダンスホールへ足を踏み入れると、既に多くの生徒たちが中にいた。
各々、飲み物や軽食、デザートを楽しむ生徒もいれば、パートナーや友人との会話を楽しんでいる生徒もいる。中には、パートナーとの距離感に緊張しているのか、無口なペアもいた。彼らの表情はお互い気になる者同士なのに、勇気が出ず会話が続かないといった、もどかしい関係のようだった。
それらを目にしたベアトリスは誰もが、このパーティーを楽しんでいるのが分かった。全てアルバート様たちが頑張って準備してきた成果だ。
「ベアトリス、お腹は空いていない? それか喉は渇いていない? 何か飲む?」
気遣ってくれるアルバートの優しさが、ベアトリスはくすぐったかった。
「では、ブドウジュースを頂いても?」
「勿論」
アルバートに手を引かれて、飲み物が並ぶテーブルへ向かう。アルバートはブドウジュースが入ったグラスを取るとベアトリスに手渡した。
「ありがとうございます」
ベアトリスがグラスを受け取ると、アルバートも同じものを手に取った。微笑み合って、二人だけで乾杯した後に口を付ける。
学生だけの夜会のため、お酒は用意されていないが、飲み物の種類は豊富に用意されていた。
一口口に含むと、葡萄のいい香りが鼻から抜けていく。
「まぁ、この葡萄ジュースとても美味しいです」
「あぁ。飲み物は一つひとつ味をみて拘って選んだからね。時間をかけて吟味した甲斐があるよ」
「アルバート様が全て味を確認されたのですか?」
「いいや、生徒会メンバー全員で決めたんだ」
「そうそう、一部意見が分かれたものもあってね。あれはみんなの意見を纏めるのが大変だったね」
ベアトリスは、背後から聞こえたその言葉に振り返る。
「フランク様」
「やぁ、ベアトリス。楽しんでいるかい?」
にこりと笑いかけてくる幼なじみにベアトリスも笑顔で答える。
「えぇ。まだ会場入りしたばかりですが、普段と違って、同年代の皆様の楽しそうな表情を目にすれば会場の雰囲気もあって、わくわくしていますわ」
「そうかい。それは良かった。きっとパーティーの終盤にはもっといいことがあるよ」
そう言って、フランクがアルバートにウインクを送る。
二人の示し合わせるようなやり取りに、ベアトリスは二人の顔を交互に見た。
「何か催しがあるのですか?」
「それは、時が来てからのお楽しみだね」
意味ありげに呟くフランク。そんな彼にアルバートが、「フランク、あまり余計なことを言わないでくれるか?」と注意する。
「おっと、すまない」
そう答えながらフランクが両手を顔の横に上げて、降参するようにポーズを取った。
二人のやり取りを不思議に思ったベアトリスだが、生徒会絡みのことだろうからと、敢えてそれ以上は深く追及しない。
「そう言えば、フランクは結局パートナーを見つけたのか?」
思い出したようにアルバートが尋ねると、「いいや。一人だよ」と返事が帰ってくる。
意外な返答にベアトリスは「えっ!?」と声を上げていた。
フランクはご令嬢たちからの人気も高い。だから、その気になれば向こうからお誘いが来そうなものだ。
それなのに、どうして?
「生徒会の広報として、最初はパートナーを作るべきだと思っていたよ? だけど、私のお姫様は焼きもちでね。学園行事とはいえ、パートナーを作るのはやめたんだ」
その発言にベアトリスとアルバートは静かに顔を驚きで染めた。
「そ、それはつまり、フランク様にお付き合いされている女性が?」
それは何処のどなたです!? ティルダ王女ですか!?
ベアトリスは内心動揺する。ティルダ王女以外の女性だったら、ティルダ王女の心が追い詰められてしまう。そう思ったベアトリスの心配をよそに、アルバートは「おい。聞いていないぞ?」と語気を強めた。
「だって、まだ誰にも言っていないからね。大体、君が言ったんじゃないか。“そんなに気になるのなら、顔を見に来てはどうだ?”と。“私が訪ねて来たら喜ぶと思う”とね」
「確かに言うには言ったが……」
悩ましげにアルバートが頭を掻いた。
二人の会話でベアトリスはフランクのお相手を確信して、ホッと息をつく。
今度のお茶会では、ティルダ王女に沢山お話を聞かなくてはいけませんわ。
「最初に打ち明けるのは親友と幼なじみがいいと思っていたんだ。打ち明けるのが遅くなってすまなかったよ」
優しい眼差しのフランクに、ベアトリスは穏やかに「いいえ」と首を横に振る。
「わたくしは嬉しいですわ。彼女のこと、大切にして下さいね」
他の生徒たちの手前、ベアトリスは名前を伏せた。
次期エセッレ公爵となるフランクとティルダ王女が付き合っているとなれば、一大スクープだ。それに、フランクの言葉から察するに、まだ公爵にも伝えていないのだろう。家の問題もあるため、幼なじみとは言え、ベアトリスから言えることは何もない。その事実を漏らす訳にはいかなかった。
「ありがとうベアトリス」
「泣かせたら只じゃおかない」
「あぁ。肝に銘じておくよ」
アルバートにそう答えると、フランクは「それじゃあ」と踵を返して、人混みの中へ紛れていった。
いつもお読み下さり、ありがとうございます!
完結が目前になりましたので、数日前に感想欄を解放しました!
もう少しで終わると思うと、早く完結させたいと思う反面、まだ書いていたい気持ちもあり、複雑な思いです。
残り数話ですが、最後まで応援して下さると嬉しいです!




