112 ベアトリスとジェマのドレスの褒め合い
学園へ到着したベアトリスは、アルバートとの待ち合わせの庭園を目指して歩いていた。
「ベアトリス様~っ!」
聞き慣れた声に呼ばれて振り向くと、ジェマがこちらに向かいながら手を振っている。
「ジェマ様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、ベアトリス様」
お互い軽く挨拶をする。
「随分お早いですわね」
「それを言うのであれば、ベアトリス様こそお早いですよね?」
「あ、……確かに。お互い様でしたわね」
そう言って、二人でクスクスと笑い合う。
「わたくしは楽しみで落ち着かなくて、早く来てしまいましたの。ジェマ様は?」
「わたくしもです。ふふふっ。わたくしより社交に慣れていらっしゃる筈のベアトリス様でも、楽しみで落ち着かないのですね」
ベアトリスは侯爵令嬢として、そしてアルバートの婚約者として、招待されるパーティーの数も多い。その全てに参加しているわけではないが、その機会が人よりも比較的多いことは確かだった。
「えぇ。アルバート様と想いを通わせてから初めてのパーティーだと思うと、落ち着きませんでしたわ」
幸せいっぱいなベアトリスの表情にジェマは「まぁ!」と、声を上げる。
「なるほど! 道理で! アルバート様も随分気合いを入れておいでだったという訳ですわね!!」
ジェマがベアトリスのドレスに視線を向けていた。アルバートがベアトリスにドレスを送ったことを知っている彼女にも、アルバートの意図は伝わったようだ。
「そうだと、とても嬉しいですわ……」
呟いたベアトリスの表情は恋する乙女そのものだ。普段あまり見せないベアトリスのそんな顔に、ジェマも幸せをお裾分けしてもらった気分になってキュンと胸をときめかせる。
「そうに決まっていますわ。だって、ベアトリス様にとってもお似合いですもの!」
力の籠ったジェマの言葉にベアトリスは一瞬、キョトンとしたが、直ぐ笑顔に戻る。
「ありがとうございます。ジェマ様もとってもお似合いですわ。いつもとは雰囲気が違うドレスですが、凄く馴染んで見えます」
ジェマのドレスは細かな刺繍が施されたレースが所々にあしらわれていた。ベアトリスが指摘したことで、今度はジェマが照れた笑顔を見せた。
「そう言っていただけて嬉しいですわ。家族や親戚の方以外にドレスを贈って貰うのは初めてで、緊張していましたの。少し自信が付きました!」
家族や自身で用意していない、ということは自ずとジェマにドレスを贈った相手は絞られる。彼女の照れた表情から察するに、ベアトリスにはあの人物以外は考えられなかった。
「と言うことは、そのドレスはマキシミリアン様が?」
ベアトリスが尋ねると、ジェマが恥ずかしそうに「はい」と答えた。ベアトリスとケイティに背中を押されたジェマは、マキシミリアンをパートナーに誘う決意を固め、見事二人のパートナーが成立したのだ。
ケイティが無事にトレヴァーとパートナーになれた少し後に、ベアトリスとケイティが彼から聞いた話によると、マキシミリアンもジェマをパートナーに誘おうと考えていたらしい。
どちらから先に誘ったのかは定かではないが、お互いにパートナーに誘おうと考えていたジェマとマキシミリアンにとって、良い結果には違いない。
「パートナーになるのであれば、是非贈らせて欲しいと言って下さって。時間があまりありませんでしたので、既存のドレスをリメイクしてオリジナルのドレスに仕上げてくださったそうなのですが、……まさかここまで素敵なものを贈って下さるなんて!」
そう言ってドレスを見下ろす彼女はとても嬉しそうだ。恐らく既存のドレスに刺繍が施されたレースを付けたのだろう。
だけど、時間がない中でこの細かな刺繍はどうされたのかしら? 刺繍のレース生地も既存の製品で、それをドレスに縫い合わせたのだとしても、それこそ相手を想う気持ちがなければ、ここまで素晴らしいドレスを用意しようとは思わないのではないかしら??
そこまで考えて、ベアトリスはピンときた。
こ、これは! 両想いの予感!! ですわ!!
この場に一緒にきゃあきゃあと騒ぎ合えるケイティがいないため、ベアトリスは平常心を装う。一つ大きく息を吸うと、侯爵令嬢として冷静な対応を心がけた。
「ジェマ様、おめでとうございます。きっと、マキシミリアン様はジェマ様のこと大切に想われていますよ。このドレスはその証ですわ!」
ベアトリス徐にはジェマの両手を握ってそう告げた。
「えっ!? そうなのかしら? ですが、わたくしはマキシミリアン様とは生徒会のお手伝いぐらいしか接点がありません。きっと真面目なマキシミリアン様だから、気を遣われただけですわ」
「真面目で誠実なマキシミリアン様だからこそだとわたくしは思いますわ。何とも想っていないご令嬢であれば、マキシミリアン様はそもそもジェマ様とパートナーにはならないと思います!」
マキシミリアンは真面目な、見た目通りの性格だ。そんな彼だからこそ、生徒会の会計を務めているといえる。何処の誰でもいいからパートナーに誘おうとは思わないだろうし、誘われたからと気軽に引き受けるような男ではない。その上、伯爵家の養子になる予定を控えているため、そういったことには慎重になる筈だ。
「そ、そんなこと……」
「ありますわ! ジェマ様!! 自信を持ってくださいませ!! 密かに優秀なマキシミリアン様をパートナーにと望んでいたご令嬢が何人かいらっしゃる筈ですわ! ですから、弱気になっていてはマキシミリアン様を取られてしまいますわよ!」
マキシミリアンが“伯爵家の養子になるかもしれないから”という理由を伏せて、ベアトリスはジェマに発破をかけた。すると、ジェマが「えっ!?」と驚いた顔を見せる。
「マキシミリアン様を慕っているご令嬢が他にもいらっしゃると言うのですか?」
「えぇ! そうですわ!」
正確には、マキシミリアンを慕っているというより、彼の将来性を見越して近づいているご令嬢が殆どだろう。
彼女たちの中に純粋な想いでマキシミリアンを慕っているご令嬢が果たしてどのくらいいるのか。それは、ベアトリスにもわからない。だが、ジェマの恋心に火をつける効果はあったようだ。
「マキシミリアン様がわたくしを少しでも良いと感じて下さっているのであれば、出来るだけ彼のお傍にいられるよう、わたくし頑張りますわ!!」
「ジェマ様、その意気ですわ!」
友人の恋を応援しつつ、ベアトリスはジェマと共に庭園を目指して再び歩み始めた。




