111 パーティーの身支度
王立学園のパーティー当日。
この日は授業は休みでパーティー開催の夕方に合わせて生徒たちは学園のダンスホールへ足を運ぶことになっている。
一部、生徒会メンバーは朝から最終確認や準備のため、学園に出入りしたりする。だが、基本的には夕方に向けて各々の屋敷、または寮で身支度する生徒が殆どだ。
ベアトリスもリュセラーデ侯爵邸でマリーナを筆頭とした侍女たちに手伝ってもらいながら、準備を進めていた。
この日のためにアルバートから贈られたのは鮮やかな青のドレスだった。アルバートの瞳と同じ色合いのドレスは、ベアトリスのブロンドの髪とも良く合っている。
ドレスの形や生地には、ベアトリスの意見も取り入れられている。だが、色に関しては特に拘りがなければ、アルバートが指定した色になると聞かされていた。だから、ベアトリスはドレスを一目見て驚きと共に喜びを感じた。
『私はベアトリスが好きだ。君を誰にも渡したくない』
アルバート様がこの色を選んだのは、きっと秘密を打ち明けてくれたあのときの言葉を見える形で表してくださったからだわ。
婚約者やパートナーに自身の色を贈って身に付けてもらうことは、それほど珍しいことではない。だけど、ベアトリスとアルバートが想いを通わせるまでの出来事を考えると、ベアトリスは堪らなく嬉しかった。アルバートと婚約解消しなくて良かったと。心から思っている程だ。
ベアトリスはアルバートから受け取った幸せを噛み締める。そんな彼女は、無意識のうちに表情が緩くなっていることに気付いていない。
その様子をマリーナは勿論、侍女たちは微笑ましく思いながらベアトリスを見守る。一時期は婚約解消の危機に陥り、落ち込んでいた主が幸せな表情を浮かべている。そのことが、侍女たちも自分のことのように嬉しいのだ。
「お嬢様、そろそろこちらへ」
姿見の前でドレス姿を眺めていたベアトリスはマリーナの言葉にハッとする。振り向くと、ドレッサーの前で数名の侍女がベアトリスが鏡の前に座るのを待っていた。
まだヘアセットや化粧が残っているが、ベアトリスが姿見の前から動こうとしないため、作業が進まない。時間には余裕があるものの、早めに終わらせるに越したことはなかった。
「あっ、……ごめんなさい。今行きますわ」
アルバートから贈られたドレスに浮かれていたことと、そんな姿を見られていたことに気恥ずかしさを覚えながらベアトリスは椅子に腰かけた。
侯爵邸には家族や使用人しかいない。だから、多少気が抜けていても問題はない。だが、外に出てからもこの調子ではいけない。
ベアトリスは重要な場面で表情を表に出さないよう、妃教育で教えられている。これは王太子妃には必要なことだ。
教えを守って、普段は公の場とプライベートでベアトリスはメリハリを付けて生活している。だが、アルバートと想いを通わせてからは、それが難しくなっていた。
こんな時こそ、無意識下でも表情を保てるようにしなければいけませんのに。
アルバートとの関係が良い方向へ進展していることに浮かれて、ベアトリスは気が抜けてしまっている。
油断しているときが一番危ないのだ。
ベアトリスは自分自身に渇をいれるように頬をペチペチと叩く。その可愛らしい行動にマリーナは密かに微笑んだ。
侍女たちの手によってベアトリスはパーティーに相応しい姿に変身していく。
美しいブロンドの髪はアレンジを加えて結い上げられ、形の良い唇も普段より鮮やかな色合いで輝きを放つ。仕上げにドレスに合うネックレスやイヤリングなどを選んで、飾り立てれば完璧だ。
「お嬢様、とっても良くお似合いです」
「ありがとう。みんなが準備してくれたお陰ですわ」
微笑んだベアトリスは立ち上がる。
まだ王立学園へ向かうには少し早い時間だ。だけど、生徒会に所属するアルバートやフランクはもう学園に到着していて、最後の打ち合わせや準備を行っていることだろう。
婚約者がいる令嬢は屋敷まで婚約者が迎えに来て、そのまま一緒に学園へ向かうカップルも多い。だが、アルバートが生徒会メンバーであるため。ベアトリスたちはそうはいかない。
そのため、アルバートとは学園の庭園で待ち合わせている。そこから一緒に会場入りする予定だ。
時間まで紅茶を飲みながら屋敷で寛ぐのも悪くはない。だが、ここにいてもそわそわして落ち着かない。であれば、早めに会場に向かうのも悪くはないと思い立つ。
「少し早いけれど、もう出ようと思うわ」
「畏まりました」
ベアトリスが侍女に伝えると、馬車の御者に伝えるべく、侍女の一人が一足先に部屋を出た。




