101 学園主催のパーティーに向けて
アルバートの隠していた秘密を打ち明けられてから、ベアトリスは穏やかな日々を過ごしていた。
婚約解消騒動から今まで、リリアンに振り回されてきたベアトリス。その大半の記憶を失ってしまっていたが、この間にケイティやジェマという友人を手に入れた。
お陰でそれまで学園で一人で過ごすことが多かったベアトリスにとって、一緒に過ごせる友人がいる学園生活はとても充実していた。
アルバートは王立学園のパーティーに向けて、生徒会で忙しくしているため、最近は食堂でしか会えていない。少し寂しいけれど、嬉しいことが一つあった。アルバートがベアトリスにドレスを贈ってくれるのだ。
ある日の妃教育終盤で王家御用達の仕立て屋が部屋を訪ねてきて、王家の使用人からアルバートが書いた手紙を渡された。その時にベアトリスは初めてドレスを贈ってくれることを知った。
食堂でしか会えないため、照れ臭くてみんなの前では話しづらいからと、手紙にしたようだった。
久しぶりに、アルバート様から心の籠ったプレゼント!
今まで社交シーズンや誕生日が近づくとドレスや宝飾品など、アルバートはベアトリスにプレゼントを贈ってくれていた。だけど、彼が魅了の秘薬にかかってからは、社交辞令のようにプレゼントが贈られただけだった。
およそ一年ぶりのアルバートからのプレゼント。それも、学園主催のパーティーのためのプレゼントだ。
ベアトリスは、アルバートのその気持ちが嬉しかった。
『私はベアトリスが好きだ。君を誰にも渡したくない』
『ありがとう。もう二度と君の気持ちを裏切らないと誓うよ』
そして、あの日の言葉を思い出しては、ベアトリスはついつい頬が緩んでしまう。
じぃっと視線を感じてベアトリスはハッとする。視線の先にはニンマリと笑みを浮かべたケイティとジェマがいる。
「ベアトリス様、幸せそうなお顔ですわね」
「アルバート様と何か良いことでもありましたか?」
二人に問い掛けられて、じんわりと頬が熱を持つ。
「わたくし、そんなに顔に出ていましたか?」
「えぇ。それはもう」
ねぇ?と二人が顔を見合わせる。
表情に出ていたなんて……と、少し照れてしまったベアトリスは頬に手を当てる。
ベアトリスは妃教育の時、公務や社交の場で意図的に顔に感情を出さない訓練を行っている。これは交渉の場に置いて、不都合なことがあった際に相手に動揺を悟らせないためだ。
わたくしもまだまだですわね。と、浮かれている自分に反省する。
「ベアトリス様、よろしければお聞かせください!」
ケイティとジェマがキラキラした眼差しをベアトリスに送る。その熱意に押されたことと、誰かに聞いて欲しい気持ちも持ち合わせていたベアトリスは、二人に打ち明ける。
「実はアルバート様がパーティー用にドレスを贈って下さるのです。仕立て屋が言うには、今までの中で一番細かいオーダーが入っているとかで……。アルバート様からの想いが込められた贈り物は久しぶりなので、とても嬉しくて」
そう言うと、「きゃ~~~!!」と二人の黄色い悲鳴が響く。恥ずかしくなってきたベアトリスは早々に話題を逸らす。
「そ、そう言うお二人はどうなのです? 最近、トレヴァー様とマキシミリアン様とそれぞれ親しくされていますわよね?」
聞くと、今度はケイティとジェマが恥ずかしそうに顔を見合わせた。
「わたくしは以前トレヴァー様をお借りしてマキシミリアン様にご迷惑をお掛けしましたから、そのお詫びで生徒会のお手伝いをしているだけです」
「わたくしも計算が得意なので、暇な時にマキシミリアン様をお手伝いしているだけですわ」
「……」
普段は素直な二人だが、自分の話になるとそうではないようだ。
「お二人とも、パーティーのパートナーは決まりました?」
「いいえ。まだですわ。……ですが、わたくしは誰からもお誘いがなければ、トレヴァー様をお誘いしてみようと考えています。その、……いつも良くしていただいていますので、」
ケイティの回答を聞いて、ベアトリスとジェマは「まぁ!」と声を上げる。
「ということは、やはりケイティ様はトレヴァー様をお慕いしていらっしゃるのね」
今まで敢えて言葉にしなかったことをベアトリスが口にすると、「……はい」と答えたケイティが頬を色付かせて頷く。
トレヴァーは色恋に関して疎い所がある。それをケイティは理解しているからこそ、自分から誘わなければトレヴァーとパートナーになれないと考えていた。
「ケイティ様! 頑張ってください!!」
ジェマが彼女の手を握る。ベアトリスもその上に手を重ねて「応援していますわ!」と付け足した。
「お二人とも、ありがとうございます」
ケイティは恥ずかしそうに笑うと「ジェマ様はどうされますの?」と尋ねた。
「わたくしは婚約者もいませんし、誰からもお誘いがなければ、パートナー無しで参加しようと考えています」
学園のパーティーは学校行事であるため、パートナーなしでも参加できることになっている。だけど、ジェマのもじもじした様子にベアトリスとケイティは顔を見合わせた。
本当はパートナーにしたい相手がいるのだろう。そして、恐らくそれはマキシミリアンだ。だが、ケイティと共に生徒会の手伝いをしていること以外に接点がなくて遠慮しているようだった。
マキシミリアンはバルテセル子爵令息だが、王立学院へ進学し、卒業した後は親戚の養子に入り伯爵家を継ぐことになっているらしい。しかし、まだ確定ではないためか、正式には発表されておらず、噂の域を出ない情報だ。
だが、マキシミリアンは学業でも高成績を修めている。そして現在は婚約者もいない。もし、彼が伯爵家の養子になれば、令嬢たちは目の色を変えて彼を狙うだろう。実際、その時が来たら逃すまいと彼と接点を持とうとあの手この手で近付いているご令嬢も数人いるようだ。
「ジェマ様、それでしたらマキシミリアン様をお誘いしてみるのはいかがかしら?」
「へっ?」
ケイティの提案にジェマが分かりやすく高い声をあげて動揺する。その様子にベアトリスとケイティは、視線を合わせて微笑んだ。
「折角、生徒会のお手伝いで仲良くされているんですもの。それが良いですわ!」
ケイティに続いてベアトリスもジェマの背中を後押しした。「ですが……」と不安そうな彼女にベアトリスはこう付け足す。
「マキシミリアン様は真面目でとても誠実な方ですから、きっとジェマ様からのお誘いを真剣に受け止めてくださいますわ」
「何かあれば、わたくしたちが付いていますわ!」
いつになく後ろ向きなジェマだったが、ベアトリスとケイティの言葉に勇気付けられて「ありがとうございます」と微笑んだ。




