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強欲なる勇者の書 ~ 魔王城勤務の針鼠 ~  作者: Planet_Rana
6章 黒魔術士は科を織る
345/346

読んでも読まなくても楽しめる的な説明回(6章後編)


 説明回の時間 (2枠目)です。


 作中に登場する専門用語や細かい設定を書きとめる企画の6回目の2回目になります。

 文字数が膨らんでしまいました。引き続き、よろしくお願いします……!!


 あてんしょん。

 ※1~6章までのネタバレを含みます。327枚目、メルデルの逐語録⑤まで読了済が望ましいです。





<世界設定・専門用語編>


①祭壇の間 (骨守本村・アダンソン):大鎧蜘蛛が座する場。

 半球形の岩塊を天井に、手彫りで中をくり抜かれた空間。ひんやりと涼しく、湿気を気にしなければ夏場でも過ごしやすい気温を保つ。天井や床には氷柱のような石が垂れ下がったり生えたりしていて、その中で最も異彩を放つのは祭壇真上に垂れ下がる巨大な「丸い物」である。

 階段を登った先にある祭壇の真上は高魔力地帯であり、魔力子に関わる殆ど全ての生物にとって危険地帯である。祭壇からそう離れていない部屋の中を含め、骨守の本村に鮮華粘菌の気配すらないのは鎧蜘蛛がそれだけ多くの魔力を喰らって生きているということでもある。


②エドゥク/リェト:長さや距離を表す単位。

 エドゥクは「人族の指先から肘までの距離を一」として大雑把に測る長さの単位である。一リェトは五エドゥクと≒として扱われる。

 主に技術者ではない一般人の勘によって扱われる単位であり、正確さは目測で「〇〇の身長何人分はあるんじゃないか?」などと判断するのと大差ない。実際の距離と判断した距離との差は、当人の目の良さと経験値に引っ張られる。

 ちなみに建物や魔法具を作る職人の間では「ぴっちりきっぱり同じ形にするために測る」魔法具や魔術が使用されているが、仕組みはどれも感覚的なもので「何かと比べた時にぴったりかぴったりじゃないのかが分かる」程度の機能であることが多い。故に、複製品ではなく新製品を発明しようとするとかなりの時間と労力を必要とする。魔法具・防具・武具技師の人口が中々増えない原因でもある。


③枝の祈り:

 イシクブール周辺で常食される特産物であるパン「白い枝」。概念的に、このパンを主食とすることで知らず知らずの内に町や村を守ってきたのかもしれない……というのが、ハーミットの推測である。今となっては確かめる術がない。


④フレンドリーファイア:味方を攻撃すること。


⑤魔術発現の補助:

 魔術師見習い未満の子どもが魔術を発現する場合、親や師にあたる術者が制御補助することがある。魔術を乗っ取り、制御し、操作権を返却することで補助する方法。

 理屈上、魔術士同士であってもこれを行うことはできるが、補助者側に技術が求められることと、他者に命を握らせるリスクがあることを理由に殆ど使われない手段である。

 ラエルとトカの組み合わせでこれを行う場合、お互いの呼吸を読んで無意識下で波長を合わせるため、合図のみで連携することすらある。当人たちには特に難しいことをしている自覚はない。


⑥詠唱の秘匿:

 ラエルがノワールと組むことで使用した魔術戦術。今回はノワールの獣魔法を頼りにしたが、本来ならイシクブールの塗り直しでキーナが着ていた礼衣やハーミットが所持する魔法具のような防音系の魔術が必要になる。

 詠唱した魔術が他者に読まれることを防ぐ戦術だが、戦いに慣れた魔術師ほど唇を見るため、詠唱内容を読まれる前提で作戦を立てる必要がある。


⑦土魔術の適応範囲:

 この世界では、土魔術が全ての魔術の基礎として扱われている。

 土魔術の範囲で操ることができる物質は「魔力子」「(つぶて)と認識できる石」「塵と認識できる砂」「土と認識できる大地」である。実はここに岩盤や鉱物は含まれない。魔力浸透性の都合から、対岩石への土魔術の通りが悪いからである。

 魔力干渉によって岩石の性質や形状を変化させるのは土魔術とは別の技術であり、錬成魔術の分野になる。

 逆を言えば、魔力干渉による物質変化でなければ土魔術にもやりようがある。例えば砂に圧力をかけることで擬似的に岩を作りだす、などだ。これを「土の拡大解釈」という。


⑧変質・(ゆう)嵌合(かんごう):高魔力地帯で起こる生物変質の一例。

 高魔力地帯にて魔力放射に長く晒された生物が、本来交わるはずもない別種の他生物と生きたまま混ざる現象を指す。

 変質による生態の変容は不可逆であり、破綻した性質の維持には莫大な魔力を必要とするため、多くの場合は生きる限り魔力放射を受け続けなければならない。その結果、殆どが晶化により一生を終えることになる。


⑨変質個体:変質の後に狂気に呑まれ「討伐対象になった生物」を主に指す言葉。

 今回第三大陸北北東にて確認された新種の蟲「鎧蜘蛛」と成人魔族女性との融嵌合個体である「大鎧蜘蛛(シャトー)」の顛末については、対応にあたった四天王の判断により討伐が行われた――という報告内容で記録されている。

 四天王強欲とラエルが提出した報告書には多少の表記揺れと認識のずれがあったが、どちらも大鎧蜘蛛(シャトー)を変質個体とは記述しておらず、また討伐の文字もなかった。

 本件に関して殺人の罪を問うわけにもいかないと、王の手により修正を入れられた上で受理されたのだ。このことに関して知るのは、資料室でうたた寝をする司書ひとりきりである。


⑩晶化:「魔晶石化現象」の略称。

 すべての生物には魔力が通っている。これを「精霊の加護」と呼称する地域も存在するが、そも「晶化」と「魔力」には密接な関係性がある。

 魔力子は通常空気中や無機物の中に存在するが、生物が生命維持の為に捕食や餌化を行うにあたって摂取者の体内に取り込まれることになる。生物に取り込まれ蓄積される魔力子のことを内在魔力と呼ぶが、この内在魔力は魂魄の代謝に関わり、主に魄 (肉体)の維持に影響を及ぼすとされる。

 内在魔力は魔法・魔術の発現のみならず、新陳代謝や魔力導線の維持にまで影響を及ぼす。生物は生命維持に必要な多くの事柄を内在魔力を使用して行っているが、この生物における内在魔力も最後には魔力子として自然に還る。

 遺体を土葬すれば大地に、火葬すれば空に、水葬すれば海に還る。

 また条件さえ揃えば、生物が形あるものを遺して自然に還る場合もある。それは内在魔力が臨界を超えた際に引き起こされる石化現象であり、これを「晶化」と呼ぶ。

 所謂「魔晶石」は「魔石」とは別物として分類される。

 「魔石」は魔物や獣から採取される、蓄積された魔力を取り込んだ石であり……生物の体内で胆石や結石、真珠化した石などがそれに当たる。これらは核が生物由来でないことが殆どであり、性質的には発掘される鉱物や真珠などと変わらない。

 一方で「魔晶石」は、確実に「なんらかの生物が魔晶石化現象を起こした故に生成されたもの」であり、青き螺鈿(ミスリル)と同じく目視でも観測可能な程の魔力放射を常に行う、という特徴を持つ。

 以上のことから「魔晶石」と「青き螺鈿」共通点は多いが、「魔晶石」が獣類、魔獣類、人類など主に肉を持つ生物から「臨界を超えたらほぼ一瞬で成る(・・)」ものであるのに対して、「青き螺鈿」は植物類が「蓄積した魔力により徐々にそう成ったもの」を指す。後者はレアメタルの見た目をした石油のようなものである。

 「魔晶石」と見た目が似ている物質として「紫晶石(クォーツ)」が存在するが、上述した事情と根拠のない不吉さを理由に、加熱により黄色になるよう処理されて出荷されることが多い。そもそも無処理の紫石をその見た目のまま維持するには必要以上に手をかけなければならず、一般人の想像以上に貴重なものである。

 一部の白き者には「魔晶石」を持ち歩く風習がある。多くは親愛を注いだ相手の形見として亡骸の一部を引き取るのだ。ただ近年は、その風習も廃れつつあるらしい。





<作中魔術編>


①【-】碧羅に(バルー)糸遊(ニング):中級土系統、糸術式 (形成)

 ごく細い魔力糸を風にのせて運ぶ技術。魔力操作に長ける者はこれで(うわさ)を知り、縄を編み、網をつくり、反物を広げるようにして強固な足場を作り、船が無くとも水上を歩むという。


②【-】釘を(ストリング)飾る網(・ウォール):中級土系統、糸術式 (形成)

 魔力糸を編み上げて多様な形状のものを作る魔術。起点さえあれば作れない形はない。糸の強度や方向性を調整することで弾性のある足場にすることも、壁をつくることもできる。

 足場の悪さを摩擦や強度を無視してカバーできるので万能であるように思えるが、発現時に構築範囲や強度を毎度計算しなければならないということを忘れてはいけない。


③【-】翼甲の盾(バスピス):中級水系統、物質構築 (土・水)

 正円状の盾を生成する魔術。水系統ということもあって、水がある場面で本領を発揮する魔術。含有する素体の量によって衝撃耐性が上がっていく。

 その場に水の素体がない場合は土系統の障壁に近いものを発現する。この場合、耐久力は術者の力量に依る。空気中に水分が全くない場合、この魔術を発現することはできない。


④【黒】炎纏(イグニ)え騎槍(ランス):中級火系統、付与術式 (強化)

 騎槍の形をした炎の塊。魔力で柄を作るため、燃料代わりになる魔力の形成技術を極めれば突き刺さった先で暫く燃え続ける炎槍となる。


⑤【-】身代わり(サブスター):中級土系統、物質構築

 大鎧蜘蛛が使用。ドレッドヘアの子どもたちが使っていたものよりも洗練されており、その精巧さはハーミットが騙されたほどである。見た目ばかりではなく、蟲爪の重さや俊敏さは本体と引けを取らない。本体に比べて防御力が弱いため、柔らかそうな部位を狙って一撃を入れれば瓦解させることができる。


⑥【-】罅知らず(スタビライズ):下級土系統、付与術式 (強化)

 基礎的な物質強化式。発現時に付与した魔力量に応じて強度が付与される。耐久は魔力の散開によって経過時間に比例する形で目減りしていく。


⑦【-】素焼の(テラコッ)掛け釘(タ・ペグ):中級土・火系統、物質構築 (加工)

 土の素体を焼いた後に「ペグ」の形状を付与したもの。魔術の避雷針や、野営の天幕張りにもってこいの魔術。


⑧【黒】這い寄る油(クリング):下級土系統、呪術式 (拘束)

 『束ねる鎖(バインド)』の下位互換。足元から全身へと纏わりつく違和感が気持ち悪い、呪縛の魔術。気を逸らしたり、魔力で対象を地面に縫い留めることができる。無理に身動きすると足を滑らせ、接地面が増えることで更に魔術の影響を受けることになる。


⑨【-】地掘竜(タルパ・イン)の擂鉢(シーディア):上級土系統、物質構築 (秘匿)

 魔力子体という特殊な身体構造を持つ地掘竜の特性を踏まえて作られた黒魔術。魔術陣の隠蔽さえできていれば、踏む直前まで存在が認識できない落とし穴となる。一度落ちてしまうと脱出は難しい。


⑩【黒】呪毒の(ユゥトゥ)蝋涎(ワックス):上級水系統、呪術式 (蝕呪毒) 禁術

 術中範囲に入った生物に「傷口」がある場合、そこからたちまち蝋化させる魔術。解術不可能の即死魔術に分類され、禁術指定されている。


⑪【黒】棘綿雨(レイニードル):下級土系統、物質構築 (土)

 棘綿という植物の種に似た球状の棘の塊が降り注ぐ。ちくちくする。

 なお棘を受けた場所には細かい傷ができるので、周囲に毒物があると惨事になる。


⑫【白】それが剣なら(シュヴェルト・フ)私も剣を(ュ・シュヴェルト):中級反射魔術、条件起動式

 反射(カウンター)魔術、対物理。条件起動式なので、外から衝撃を加えなければ反射は発動しない。


⑬【白】それが意思なら(アプズィヒト・フ)私も意思を(ュ・アプズィヒト):中級反射魔術、条件起動式

 反射(カウンター)魔術、対魔法。条件起動式なので、外から魔力干渉しなければ反射は発動しない。


⑭【黒】我が血肉(ブラッド)となれ(ライン):上級土系統、魔力吸収式

 魔力吸収(ドレイン)の一種。対象の魔力を強制排出させ、術者がそれを吸収することで魔力を奪う。一対一を想定しており、発動式は鞭の形をしている。魔力変換器(トランスデューサ)を使用することで初めて安定した発現を行うことができる。 


⑮【-】鳥の眼(トリノメ):中級風系統、視野 (運搬)

 眼球ひとつ分の視野を有する飛行体を指定した座標に発現させる魔術。視野を運搬するので聴覚に作用する『風読書(レッジィ・ヴェント)』と同じく運搬系魔術の扱いを受けている。

 指定座標に発現させた飛行体が破壊された場合、連動している術者の眼球にも反動がある。


⑯【-】上昇する(アサリエ・)地の利(バンタジオ):中級土系統、物質構築 (地形変化)

 元は角柱を複数出現させる地形変化の魔術。土の素体が場にあれば使用できる。

 これまでラエルが何度も使用してきた土魔術だが、その真骨頂は「素体さえ用意できれば角柱を発生させることができる」ことにある。

 発現結果は術者の力量によるが、魔力浸透性さえ確保できれば錬成魔術がするように方向性を弄って形を遊ぶこともできる。


⑰【黒】早魃(ドラウト):上級火系統、物質構築 (火)禁術の類

 干ばつ現象を詠唱名に冠している通り、水を蒸発――場合によっては池や川すら干からびさせることもできる魔術。毒沼の除去作業などに使用される。

 人間を相手に発現することは禁忌である。まともに当たれば、あっという間に干し肉のできあがりだ。


⑱【黒】枯れ乾く虚(アリアセッカ):中級火系統、物質構築 (火)生活魔術

 今回ラエルが使用したのは、イシクブールの蚤の市にてラエルが対峙した賊ベイツが使用していた魔術を模したものである。

 足元を乾かして走りやすくすることが目的だったが、晶砂岩の華が構築された際の熱を大鎧蜘蛛(シャトー)が自主回収したことにより、冷えた岩の足場に結露が起き、振り出しに戻された。


⑲【黒】火球重ねて(フォイアロー)爪弾く(・ボーライド):上級火系統、破壊式

 『火球(ボーライド)』と『弓兵の心得(アロー)』を組み合わせた応用魔術。『炎弾(フォイア)』をも組み込んでいるため、球数が多く弾速が速いのが特徴。魔力消費が馬鹿にならないはずだが、ほぼ無尽蔵の魔力源を備えていた大鎧蜘蛛(シャトー)には足枷にもならない事柄だった。


⑳【黒】熱り(ホトリ)(ツブテ):上級火系統、物質構築 (土・火)

 『(ツブテ)』に火魔術を付与したもの。薪がない時、石を温めたい際に重宝する魔術。『念動(テレキネ)』や『心念動(サイコク)』を合わせて使用することで凶器としても扱われる。


㉑【-】土塊(ツチクレ):下級土系統、物質構築

 元は、土や砂を塊にして操作する基礎的な魔術。操作性が魔力浸透性に左右されるため、魔術師見習いの教習にもよく使われている。


㉒【黒】閉口せよ(シーガーテ):上級雷系統、身体操作 (雷)

 雷系統の身体操作魔術。身体操作は主に土系統の圧枷と水系統幻術、雷系統操作とがあるが、土よりも雷の方が体内の反射機能を操作できる分、強力な作用を持つ。魔術師を無力化するという意味では『沈黙(サイレンス)』に並んで名称が挙げられることも多い魔術である。


㉓【-】看破(かんぱ)

 魔術用語のひとつ。主に魔術師の詠唱に割り込んで発現を台無しにすることを言う。魔力量に大きな差があれば「圧枷(デバフ)」などの応用で「無効化(レジスト)」できるのだが、多くの場合はそうではない。看破を行う際には「破壊したい魔術」を看破する側が見抜いている必要があり、よっぽどのことがない限りは後手に回ることになる。

 看破を魔術陣に対して行う場合、その陣から何が発現するかを見抜く必要がある。そのため魔術陣の看破は難度が高く、初対面の相手に看破を命中させるには相当の場数を踏む必要が出てくる。


㉔【白】解呪(デスペル):中級回復術、解術式 (呪術特攻)

 対呪術のために作られた汎用解術式。通常の魔術は「解術宣言(デスペルコール)」で解術できるが、呪術には魔力供給する術者が死亡した後も継続で効果を発現する代物が存在するので、それらを強制解術するために開発された。発現する直前の呪術式にぶつけると、相殺の効果がある。


代替者(エアザッツ)の心臓(・ハーツ) (?):詳細不明

 某絵描きが、グリッタと取引した後に付与した魔術のこと。

 通常、ひとつの詠唱に対して得られる魔術発現の結果は、術者の力量の差はあれ大体同じようなものになる。

 ラエルがよく暴発させている『点火(アンツ)』は暴発による瞬間火力を奇跡的なバランスで収束させている故にあの形状をしているが、「立ち上る火の帯」という意味では形を崩して発現しているわけではない。

 本来なら代替先に「心臓」を指定する時点で「心臓」以外の部位に対する反射(リフレクト)鏡面映し(ミラーリング)は起きないはずである。しかしグリッタはこの魔術は「外傷の身代わり」ではなく「身代わり側の反射機能を阻害して奮戦状態を維持できるようにすること」に真価があると予測した。

 以上の証言を踏まえ、ハーミットは某絵描きがグリッタとキーナに使用した魔術が『代替者(エアザッツ)の心臓(・ハーツ)』とは「別物」であると判じているが……詳細不明。


㉖【-】疑岩(ぎがん)(うろこ):中級相当の獣魔法、障壁の偽装構築 (幻影)

 障壁を作り出す獣魔法。看破によって破壊されるが、看破されるまでは「どのような障壁系魔術でも騙ることが可能」という特性を持つ。

 魔力は周囲から収集するため、土地の魔力濃度や使役者の内在魔力量によって「吐ける嘘の規模」が決まる。今回の戦闘ではラエルの魔力量と実力を踏まえて『受け流す壁(パリング)』を模倣する選択をした。

 ノワールは器用貧乏なので扱える魔力量は少なく、一度破られれば簡単に再生成することはできない。代わりに、その偽装は一般的な魔術士の目を欺くには十分な精度を誇っている。


㉗【-】詠唱撤回(リトラクト)

 魔術用語。魔術師が自身の詠唱を途中で辞める際に使う指示式のひとつ。始めた詠唱を打ち切るのは身体に負担がかかるが、丁寧に詠唱撤回を行うことで多少は反動が緩和される。


㉘【-】茨繭の棺(しけんのひつぎ):中級相当の獣魔法、結界式 (封印)

 強固な守り。嵐や冬を生き延びるため、極限の状況下で生き残るために使用される獣魔法。術者は発現時に意識を失うが、本体の魔力が一定以下になるまで結界が壊れることはない。

 ノワールは器用貧乏なので、この魔術を発動することはできても内側から解術することができない。ハーミットや契約者のロゼッタにより「外部から強制解術できる」と判断した場合のみ使用する切り札である。


㉙【黒】清浄と不浄の置換:上級相当、呪術式 (代償置換)職規定禁術

 清浄と不浄の置換をもたらす魔術には様々なものがあるが、どの大陸で発展したとしても「悪臭をフローラルな香りにする」とか「毒沼をただの沼地にする」だとか、割と汎用性がある魔術である。よくある使用法として洞窟内部に溜まった有毒ガスを取り除いたり、空気が薄い地点に生命維持できる程度の空気を供給する、などがある。

 「現象の置換」が根本の原始的な魔術であるため、清浄を求めるなら対価に不浄とされるものを用意する必要がある。対価の価値が術者にとって重ければ重いほど効力は安定して発揮され、一般的に周知される効力の高い捧げ物として「山獣」の例がある。

 とはいえ仕組みが可逆であり、手順さえ踏めば逆の結果をもたらすことも可能な魔術である故に、使用に免許と許可申請が必要な職規定禁術に指定されている。


㉚【-】脱皮 (鏡面のスタラクタス):外装分解・再構築

 鏡面のスタラクタスが生まれながらに持つ能力の一つ。大量の魔力を消費する代わりに、任意の形状へと外殻(みため)を変容させることができる。表面の物質構築を変化させることで鉄のように硬い鎧を纏ったり、人のように柔らかい肉の肌を作ったりもできる。

 今代は鎧蜘蛛(アダンス)の体質をベースに生命構造を確立させているため、体内は全身に魔力導線が通るスポンジ状の形をしている。脱皮により体積の増減は無いが、魔力を餌化する過程で透明な魔力塊 (液体)を体液として体内に蓄積するので、魔力を取り込めば取り込むほど巨大になる。

 通常脱皮といえば身体を大きくするため……成長のためにするものだ。だが鏡面のスタラクタスにとっては内在魔力量と身体の大きさを調整するための手段でしかない。エヴァン曰く、そのように今代は仰せらしい。





<魔法具・装具編>


①青い口紅:キーナの所持品。気合を入れる時に使うもの。

 玉虫色に光沢を放つ青い紅。いつもと違う自分になるため、確実に魔術を成功させる自分であるために、ここぞという場面でキーナが使用するもの。魔力に干渉しない原材料を使用している。


②黒革のハーフグローブ:絵描きから貰った黒手袋。キーナの装備。

 年代物の古い手袋。革が非常に柔らかく伸縮性に優れており、前後二サイズ程度であれば魔術によるサイズ調整を必要としない。

 元の持ち主であるスターリングは、これをハーフグローブとして使用していた。一応手袋自体がハーフグローブとして設計されているのだが、小柄なキーナの手ではハーフにはならず普通の手袋として扱われている。伸縮性は素材の革と制作技術によるものなので、特に魔法具的な機能はついていない。


③鎖付きの指輪:キーナの装身具。螺鈿武具(ミスリアルム)

 鎖がついた五指用の青銀色の指輪。キーナが化粧箱に詰め込んで持ち込んだもののひとつ。魔術の指向を補助する魔法具である。発動している間は鎖同士が反発して間を取るため、しゃらしゃらと鳴ることはない。


④木製リストバンド:キーナの装身具。

 源泉器栓脱落症であるキーナにとって、生命維持装置の役割を果たすもの。友人や恩人の回線硝子(ラインビードロ)が収納されている。

 死にかけたキーナを治療するにあたって生命維持に関わる魔術を付与された核と回線硝子(ラインビードロ)が取り出され、リストバンド本体は破壊された。


⑤魔術書 (禊歌・遷移):キーナが所持している魔術書。

 水系統魔術に対応する禊歌「遷移歌」を適応可能な魔術を素早く参照する為の魔術書。辞書で言葉の意味を引くように、魔術書から魔術陣を引くのだ。


⑥銀の栞・タクトの杖:キーナが所持している杖。通常は栞の形にして魔術書に挟んでいる。


⑦石槍:サンゲイザーが錬成した槍。硬度はあるが強度に不安がある。長くは保たない。


⑧船都市衛兵剣:エヴァンの持ち物。船都市衛兵に支給されている武具。

 反りがついた片手用の湾刀(わんとう)、剣先に僅かな両刃がついたサブルである。肌が硬い魚の革を滑り止めに、緑色の護拳がついている実用的な品。

 サンドクォーツクでは衛兵を称賛する文句のひとつに「牙魚の鱗を断つ剣先」というものがあるのだが、言葉通りに剣を牙魚の鱗めがけて切りつけて剣先を折ったり刃こぼれさせる新人が毎年出る。とても叱られる。


⑨飛行カンテラ:カンテラに魔術的な浮遊状態を付与したもの。魔力提供者に紐づけされるので、所持者の行動をカンテラが追随する。


炭樹(トレント)狼煙(のろし):魔力を撒き散らすために使用した焚き火。獣寄せ。


⑪白木聖樹の枝 (小):大人の腕ほどもある遊色の枝。

 切り落とした後も魔力放射し続けるため、素手で触るのは大変危険。ハーミットがバクハイムの村長とレーテから個人的に数本買い取ったものの内の一本。


⑫真紅のロンググローブ:ハーミットの手袋

 戦闘時に身につけるロンググローブ。一種の籠手のようなもの。肘付近に巻いているベルトに収納している。見た目にそぐわず薄い革でできているため、他の手袋と重ねて身に着けることができる。


⑬テープ:ハーミットが薬箱から引っ張り出したもの。テーピング用。


刺繍(さし)帷子(かたびら):ハーミットの持ち物。予備を何着も持っている。

 ハーミットの普段着である黒の長袖タートルネックには防刃加工がなされている。魔導王国で一般販売されているものなので防御魔術の刺繍もなされているが、ハーミットには織りによる防刃作用しか恩恵がない。当人も「ないよりはマシだ」という理由で愛用している。

 この度ラエルもこの黒服に袖を通すことになった。彼女が所持するワンピース一枚では防御が不十分だと判断されたからである。


⑮借りた黒手袋:ラエルがハーミットから借りたショートグローブ。

 魔法具的な機能がついていない、まだ新しい革手袋。魔力を流しても問題ない素材で使われているが、水色の手袋のように魔力コントロールの補助はしてくれない。ハーミットの手に合わせたサイズだったものをトカとクリザンテイムが直した。急ごしらえのため、手首を隠す事を考えられていない。


⑯鱗肌の腕:サンゲイザーの右上腕を赤錆色の布に包んだもの。

 蟲の攻撃を受けて使い物にならなくなった腕を、落とし穴に落ちたことでさらに痛めたサンゲイザーは、空気の薄さを知覚する前に自身の右腕を代価にした。

 酸欠での即死を免れたあと、脱出用の階段を作ったり腕を壁の中に閉じ込めたり鎧蜘蛛を露払いして安全地帯を確保したりしていたのだが、エヴァンとキーナに合流したことでようやく休眠する選択を取ることができた。報酬は針鼠との手合わせと任意の品物への署名とで落ち着いたそうだ。


⑰算盤:アバカス。

 原始的な手数えの計算機。覚えるとあらゆる計算に応用ができ、頭の中に算盤を持ち運ぶ者も少なくない。特に商人の間で重宝される計算法であり、キーナはお家柄もあって幼少期から叩き込まれている。


⑱回収された金属片:

 レーテがスタラクタスに頼んで回収してもらった、誰かの持ち物だったもの。原型は殆ど残っておらず、石座と螺子式の仕組みをしていたことしか分からない。

 今はただのひしゃげた金属片だが、レーテはこれをトカとストレンに託している。


⑲紫石のピアス:ラエルが左耳に身につけていた装身具。

 黒髪の少女が肌見放さず身に着けてきたピアス。元はシャトーの所持品であり、『翻訳魔術(トランスレーター)』が付与されていた。


⑳花意匠のブローチ:ラエルがキーナとグリッタから贈られた装身具。

 キーナから蚤の市で貸し出してもらった晶砂岩のループタイを、グリッタの手でスリーウェイブローチに組み替えたもの。使用する金具と付属の紐を駆使して「ループタイ」、「ブローチ」、「カフス」の三役をこなす。

 比較的長く使える魔石カフスである代わりに、籠められる魔術はひとつだけ。現在は『翻訳魔術(トランスレーター)』が付与されている。


㉑黒の契約紙:黒い紐と黒い封蝋とで縛り固められた契約紙。

 ラエルが王様から渡された契約紙。まだ署名されていないが、外部の人間が手を加えようとすれば「ラエル・イゥルポテー」の署名が成されるよう仕掛けを施してある。この仕掛け自体はラエルの手によるものだ。

 ラエルは、この中身をハーミットに見せることを躊躇っているようだが……。





<生物編>


①白い蜘蛛:限りなく完成に近い状態で生まれた、今代の蟲長。

 ラエルたちの元に現れた白い毛鞠のようなモフモフの小さい蜘蛛。身代わり(サブスター)の分体は鎧蜘蛛(アダンス)の十分の一ほどのサイズである。 

 元は鎧蜘蛛(アダンス)の姿をした赤茶の眼に白色の大蜘蛛だったのを、キーナの提案により脱皮を繰り返して人型となり、現在は鏡のような顔をした青髪の子どもの姿を模している。鎧蜘蛛(アダンス)を束ねる長の役目を引き継ぎ、生まれて早々に土地の魔力を回収する「役目」を開始した。

 栄養袋を始めとする「場の魔力」を食らうことで誕生・成長する「発生に贄を必要としない蟲の長」である。人間の贄を介さずに生まれた今代は変質個体ではなく、分類としては精霊と呼ぶほうが本質に近いだろう。生まれたばかりの精霊にしては多くの記録を記憶として有しているようだが……。

 エヴァンはキーナの延命を願った代償として「分身体を通して、今代に村の外を見せる」ことを契約した。伝導者の役目は、まだ終わっていない。


②銀の瞳:キーナの右眼窩に埋め込まれた生成臓器。

 死にかけたキーナを助けてほしいと願われた今代の蟲は、彼が身につけている腕輪に搭載されていた魔石を、付与されていた術式ごと右目があった場所に埋め込んだ。その結果が「銀の瞳」である。

 キーナの髪を素材に神経と魔力導線に接続されたらしい後付けの臓器だが、今のところキーナの体調を良くするばかりで異常はないという。左眼球視の両眼視化と、右眼球視による魔力可視強化の常態化。本人の自覚の元で明らかになっている変化は、この二つだけである。

 逐語録の記録曰く、「精霊の(まじな)い」と呼ばれる現象と似通った点があるらしい。詳細不明。


群生した(グレガリオス)炭樹(・トレント):第五大陸に自生する炭樹(トレント)のこと。詳細不明。





<食べ物編>


①ギューノスのステーキ:焼き肉専門店「ダッグリズリー」のメニュー。

 魔導王国の王様の好物であり主食。塊肉に程よく火を入れた後、ナイフを入れてかぶりつく。

 通常はひと塊を四人くらいで分けて食べるのだが、王様はこれを一人で平らげる。なんならおかわりもする。


②肉野菜炒め:焼き肉専門店「ダッグリズリー」のメニュー。

 出汁に漬け込んだ葉野菜と薄く切った肉を鉄板の上で隙な焦げ具合まで炒めることで完成する美味しい料理。ヘルシーそうに見えるからか、女性人気があるらしい。

 ラエルが持ち帰った分は、そのまま彼女の夕食となった。甘辛いタレがよく絡んだ野菜炒めの味は濃く、いつもよりひとつ多くパンを食べることになった。


③縞白芋のポタージュ:食堂「モスリーキッチン」のメニュー。

 日替わりスープセットのひとつ。縞々の見た目が特徴的な白い芋をすり潰して綺麗に濾し、カムメのアラと野菜の軸を煮詰めて作った特性のスープを加えたもの。

 ハーミット曰く「この芋も求めているものとは違う」とのことだが、それはそれとして美味しそうに頬張る姿が目撃されている。


④フルコース:正確には「傾国賛歌・略式の七品~緋一華(アニムス)鶏冠(かべん)を添えて~」である。

 魔導王国浮島にて、ハーミットが予約した超高級レストランで振る舞われたフルコース。

 古代、第三大陸にて傾国と謳われた美貌の姫君が居た頃の御伽噺。かの姫が権力と実力によって客人に振る舞った二十一品の料理により、敵対した者を「食」によって尽く跪かせたという――「傾国賛歌」とは、「敵国からの間者が手のひらを返すほどの美食」の逸話を元に、現代まで受け継がれている料理である。

 今回、魔導王国浮島の店で二人が食べたのは略式の七品。前菜、スープ、海鮮、果実の綿氷、肉類、デザート、カフィの七品を、ゆったりと楽しんだ。





 ラエルの右腕から生えでる「何か」、ツァツリーが使用した「■■」、トカの無魔法については、次の間章にて取り上げる予定です。




 沢山の文字を読んでいただき、ありがとうございました。


 次回更新は登場人物紹介となります。




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