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強欲なる勇者の書 ~ 魔王城勤務の針鼠 ~  作者: Planet_Rana
6章 黒魔術士は科を織る
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(閑話)メルデルの逐語録⑤


記入日:ヴィリディス暦四五〇二年十一月二十五日

記録者:メルデル・■■■■■■

対象者:キニーネ・スカルペッロ=ラールギロス (第三大陸クァリィ共和国:イシクブール在住、魔術師見習い)


メルデル (以下Mとする):はじめまして。ワタクシ、本日の面談を担当させて頂きますメルデルと申します。今日は短い時間ですが、よろしくお願いいたしますね。


キニーネ (以下Kとする):こちらこそはじめまして、キニーネです。今日はよろしくおねがいします。……へぇ、面談というより、相談室みたいな感じなんだ? あっ、記録魔法具があるということは、この会話も全部? (物珍しいのかキョロキョロとする)


M:はい。ここでお話された問診の内容は、予後治療が必要ないと判断された時点で廃棄されます。プライバシーの保護と情報の管理については、こちらもプロですので安心して任せていただければと。


K:ああ、大丈夫大丈夫、そういう定型句に興味はないよ。ハーミットさんから事前に全部筒抜けって聞いてるし、下手な芝居はするなよって釘刺されたばっかりだからさ。まったく、ラエルさんのことが心配だからって提出する書類の整理とほうぼうへの状況説明を同時に片付けていく針鼠の血走った目といったら痛快だったよね!


M:……。


K:あー、……失礼しました。まあ、病院とか教会とかとやってることは同じというか近いっぽいし、騒ぐのは論外だね。ええっと、「メルデルさん」だったよね? 僕の口から、何が聞きたいの?


M:キニーネさん、とても元気でいらっしゃいますね。


K:元気だよ。もし元気じゃなかったら、僕は部屋に引きこもってアプル齧って寝てると思う。


M:それなら尚のこと、応じていただき感謝いたします。……今回お呼び立てした理由としましては、四天王強欲からの推薦です。バクハイム及びアダンソンにまつわる一連の事件に関わったひとりとして、事情聴取を兼ねた問診になります。まずは、こちらをご記入くださいますか?


K:うぉー、質問紙ってやつ? 始めて見る内容だなぁ。


M:魔導王国独自のものを使用していますので。……キニーネさんは、私の他にも言霊治療(カウンセリング)のようなものを受けたことが?


K:そう思ってくれていいよ。ほら、僕ってばちょっと前までメンタル不安定だったからさ。医者とかに、こういうのを記入させられたりしたこともあるんだ。……別に、本音を書いてたわけじゃあないけどね。医者には見抜かれてただろうけど、母様を安心させるのには必要だったんだよ。


M:そうですか。今日はどうですか? 無理をせず答えられそうですか?


K:どうだろう。でも、さっきからメルデルさんがちょくちょく魔術を発現させようとしてるのは分かるよ。しかも条件起動式? 僕にはまだ読めないけど、もし見られたくない術式だったなら……。


M:いえ、ワタクシは構いませんよ。そういえば、資料には「右眼球の喪失」、「左眼球視の両眼視化」、「右眼球視による魔力可視強化の常態化」……とありますが。


K: (眼鏡のつるを掴むような動作が空振りする)そうだね。ハーミットさんからどの程度情報が行っているのか知らないけど、概ねその解釈で間違いないと思うよ。


M:そうでしたか。晶化に巻き込まれた上に失明とは、大変な思いをしましたね。


K:……大変? なのかは、微妙なんだよなぁ。僕、もともと魔力可視は得意だったから、今の視界は「常に視界を強化付与してる」のと大して変わらないんだ。意図して見ようとしなきゃ見えなかったものが、常に見えるようになったっていうだけでね。ラエルさんやエヴァンに比べたら、僕に残った傷なんて、大したことないって。


M:……。


K:メルデルさん?


M:負傷の有無も、精神的な負担も、苦労の量も。他者と比較されるものではありません。ワタクシが知りたいのは「貴方がどう思ったか」なのです。キニーネさん。


K:ふーん、なるほど。それならちょっと待ってて、絞り出してみるから。 (長考四十秒)


M: (クライアントが会話を切り出すまで観察。急激な発汗や挙動不審は見られない。例の件に関しては、言及されなければ重要性にも気づかないといったところか)


K:んー。「思ったこと」って抽象的すぎて、上手くまとまらないや。確かに、鎧蜘蛛に拉致されたときとか、捕縛作戦に協力した時は死に物狂いだったし、実際に晶化しかけた時は流石に駄目だって思ったんだけど。


M: (言葉を待つ)


K:でも、僕はあの大蜘蛛のことが怖くなかったんだ。感情欠損(ハートロス)でもないのに、ちっとも怖くなかった。彼女は僕らとは違う姿をしていたけど。そうなった経緯と、あの村で起きたことをハーミットさんとエヴァンさんから聞いた今になっても。あまり、怖くないというか……なんというか、僕は彼女と面と向かって会ったわけじゃあないからさ、実感が沸かないままなんだよな。


M: (言葉を待つ)


K:僕は、できることなら彼女とも話をしたかったけど。でも、ラエルさんもレーテじいちゃんもハーミットさんもグリッタさんもサンゲイザーさんもツァツリーさんも、盗賊の人たちだって、捕縛する為の手段に闘うことを選んだんだ。選んだからには、全員が、何も考えなかったわけがないだろう。……だから。


M: (言葉を待つ)


K:きっと、この結末は。あの村に居た全員が、精一杯足掻(あが)いた結果なんだ、って。僕は……そう信じたいよ。


M:信じたい(・・・・)、と言うのですね。貴方は。


K:そうだよ。……もし全員が同じ方向を向いて、全力を出していた結果が今回のことなら、ラエルさんがあんなにも傷ついた顔をする理由が無いだろうからね。……それで、僕も僕で、目がこうなったわけだから。そのことについては受け入れなきゃいけないと思っている。


M:受け入れる、とは。具体的に展望があるんですか?


K:うん。視界の変化については問題ないんだけど。これまで覚えた魔術の使い方が丁寧すぎて、型にはまりすぎちゃってるんだよね。今まではそうするべき理由があったけど、この目になる過程で解決した。そうしたら、実際に魔術師を目指すにしても、自分の魔術にセーフティをかけなきゃならないのは当然だろ?


M:身体に異常はなくても、日常生活において不便はある、ということですね。


K:慣れれば済むことだとは思うんだけどね。実際に矯正するとして、どれだけ時間がかかるのか。僕の寿命の内に直せるものなのか……いっそのこと、直さないほうがいいのか。この辺りは、医者と学園の教授たちにも意見を仰ぐつもりだよ。最終的には、僕が決めるけど。


M: (言葉を待つ)


K:……こんなものでいいかな? 他に、聞きたいことがあれば。僕で良ければ答えるよ。


M:いえ。今日のワタクシは、聴取を目的に貴方の話を聞いているわけではありませんから。


K:へえ、そうなんだ。先に酒場のおっちゃんから話を聞いてたから、もっと問い詰められるのかと思ってたよ。仕事の時は意外に優しいんだね、メルデルさんって。


M:ワタクシが、優しい?


K:そうそう。メルデルさんが酒場で同僚? の人と仲良くしてるのを見たっていう話を聞いてたんだ。……これはあまり表に出さない方が良い情報だったりする?


M:……この場でそのような話をなされると、プライバシーの侵害と看做しますが?


K:面接っていうのは、プライベートな話を記録する場だろ? それにイシクブールは情報が駆け巡る町だ。魔導王国の人間が何処で何を買ったのかくらいは誰でも知ってるさ。……僕はこの町の、町長の孫だよ。継承権が剥奪されたとしても、町の人たちと、ここに訪れた人たちを守る義務がある。


M: (沈黙、十秒)


K:聞けば、お客さんが虹の酒を頼んだことをからかったらしいじゃんか。自分のお金で買って飲んだ感想を言うなら全然構わないけど、口にもしていない人が大声でそれをやっちゃあ駄目だろ。流石に、お店のイメージを落とす行為だったと思わない?


M:……その件は、誠に申し訳ありませんでした。謝罪を兼ねて今夜虹の酒を飲みに伺いますと、酒場のご主人に伝言を頼めますか?


K:いいですよ! (満面の笑み)綺麗に作るのが本当に大変で、手間がかかった高価な虹の酒……注文した折には最後の一滴まで味わって飲み干して、それから浮島に帰ってほしいな!


M:……それは、ありがとうございます。……丁度、時間も来たようですし。本日の面談はここまでにしましょう。


K:うん。今日は話せて良かったよ、メルデルさん。次にイシクブールに来た時は、酒場と宿屋だけじゃなくて他にも沢山のお店があるんだってことを紹介するからさ。楽しみにしててよ。


M:うふふ。それは楽しみです。その時は、どうかお手柔らかにお願いしますね。





面接時間:三十六分。

観察より:

 件の説明時、声が震える瞬間もあったが終始溌剌としており、自己の認識も安定していた。右目を失ったことについては、左目のみで両眼視が形成されていることから自認が薄いものと思われる。本人の気質についてサンプルが無いため主観になるが、質問紙の数値に出たストレス値の高さに対して当人のストレス耐性が高かったことが、本面接での溌剌さに繋がったのだと考えられる。今後、面接を続行する必要はないと判断したため、本件に関する当人への面接は今回をもって終了とする。

 失明した右目についてだが、頭髪を魔力塊にすることで魔力導線を接続し、魔石を核に臓器化を成功させた稀な例になるだろう。系統としては精霊の(まじな)いに近いものだと考えられる。今後、人の技術での再現が叶えば、白魔術を始めとした医療の躍進に貢献することになるだろう。

 なお、彼は四天王強欲より通達があった未処置の目撃者二名の内ひとりであり、現在残火による観察処分下にある。近日中に第二大陸の学園へ帰還する為、予後観察目的としてキニーネ・スカルペッロ=ラールギロスへの専任監視者の配置を提案する。


走り書きのメモ:

 商人を、むやみに怒らせるものでは、ありませんね。





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