合格祝い
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せっかくなので今日くらいは一緒に合格の喜びを分かち合おうじゃないかということで、俺達は一度別れてから、一緒に祝杯を挙げることにした。
まずは宿に戻り、しっかりと身体を清める。
試験の最中はまともに身体を拭くこともできなかったので、お湯でしっかりと汚れを落とし、ぺったぺたになっている髪も洗う。
「ふぅ、さっぱりした……って、もう時間か」
身体をくまなく洗い軽く仮眠を取っていたら、あっという間に時間がやってくる。
向かった先は大通りから路地裏へ向かう途中の地下にある、隠れ家的な雰囲気のある居酒屋だった。
流石サロマの街で色々と顔が利くらしいアネットのチョイス、なかなかどうして悪くない。
入ると中の照明は暗めで、案内してくれるのもちょっとおしゃれな感じのウェイター。
部屋の灯りはろうそくだけで、いかにも風情があった。
雰囲気が落ち着いていて俺は好きだが、巨人族に侍に包帯ぐるぐる巻きという変なやつらが飯を食うには、少ししっぽりしすぎている気がしないでもない。
中に入ると既にメンバーは揃っていて、やってきたのは俺が一番最後だった。
「よし、それじゃあ俺達『巨人族と愉快な仲間達』の合格を祝して……」
「ちょっと待つでござる! なんでござるか、その奇っ怪な名前は」
エールのジョッキを掲げるガスに、ミチルがいきなり茶々を入れる。
だがたしかに俺も気になってた、なんだその名前。
「何って……俺達五人の臨時パーティー名だが?」
「嫌でござるよ、そんな妙ちきりんな名前!」
「なんだとぉっ!?」
ガスはいきなり立ち上がるとミチルの下にずんずんと向かっていくが、その様子を心配している人間はこの場にはいない。
「いよぉし、それなら飲み比べで勝負だ!」
「望むところでござる!」
二人はいきなり席の端の方でジョッキを干し始め、料理が来るよりも早くおかわりを頼み始めた。
雰囲気はぶち壊しだが、殴り合ったりするよりはよっぽど健全だろう。
「あのバカは、なんで乾杯するよりも早く飲み始めるかねぇ」
「まあまあ、俺達でしっぽり飲めばいいさ」
「……その通り」
俺とアネットとボノボは、ガバガバと酒を開け始めたガス達と少し距離を取って、しっぽりやることにした。
三人でやってきたワインとエールをゆっくりと掲げる。
「それじゃあ俺達の合格を祝して……」
「「「乾杯っ」」」
ぐぐっとエールを飲むと、疲れた身体にアルコールが染み渡る。
かあっ、この一杯のために生きてるなぁ……なんてことを考える俺は、もう立派なおっさんなのだろう。
ちなみにボノボはもう俺達相手だと気にしないのか、顔の周りの包帯を外してあの美少女姿に戻っていた。
「一応念のために聞くんだけど、ボノボって成人してるよな?」
「……失礼」
「いや、そりゃ冒険者登録してる時点でんなことないとはわかってるけどさ。もしかしたらサバ読んでたりするかもしれないだろ?」
「たしかに、十二才くらいって言われても信じちまうくらいに若々しいよねぇ」
ボノボの見た目は、完全に美少女だ。
髪の色がピンク色なこともあって、完全に二次元世界の住民みたいだ。
見た目がそっくりなVtuberがいると聞いても、驚きより納得が先に来そうだ。
料理を運びに来たウェイターが中に入ってくると、気付けばボノボの顔には包帯が巻かれていた。
どうやら気を許した人間以外に顔を見られるのには、未だに抵抗があるらしい。
「そういえばボノボって、普段は誰かと組んでるのか?」
気になったので尋ねてみると、ぶんぶんと首を振られる。
どうやら彼女も俺と同じく、ソロで活動しているらしい。
そういえば他のやつらはどうなんだろうか?
「たまに慕ってくる後輩達を連れて行くこともあるけど、私も基本はソロだね」
「俺も基本一人だぜ! おかわり!」
「自分は特定のパーティーは組んでないけど、ソロでは活動してないでござる。色んなパーティーを渡り鳥のようにふらふらしているでござるよ」
話を聞くと、ここにいる面子は誰も特定のパーティーを組んでいないらしい。
Bランクの壁を超えているやつらは、一癖も二癖もあるやつらがほとんどだ。
こいつらと一緒に過ごして、エヴァ達『紫電一閃』が例外なだけだということがよくわかった。
「……でも、悪くなかった」
「たしかに、ボノボの言う通り。喧嘩をしたりすることもあったけど、試験の三日間はなかなか悪くなかったよ。それこそパーティーから臨時を取ってもいいんじゃないかって思えるくらいには」
「たしかにこの面子でパーティーを組んだら、退屈はしないかもな。……喧嘩も絶えなさそうだけど」
「ハハッ、確かにね」
俺達がちょびちょびと洒落たつまみをつまんでいる間にも当然ながらガスとミチルはとんでもないペースで酒を飲み続けており、あいつらの前のテーブルには所狭しとジョッキが並べられていた。
「ぐっ、やるじゃねぇか……」
「今日のところは、引き分けでござるね……」
二人はにやりと不敵に笑い合い……そしてそのまま、ジョッキの置かれたテーブルに思いっきり倒れた。
どうやらほとんど同じタイミングで潰れたらしく、そのまますぅすぅと寝息が聞こえてくる。
「……え、これってもしかして俺達が介抱するのか?」
「まあそうなるだろうねぇ……前言を撤回するよ。こんなやつらとパーティー組んでたら心労で寿命が縮んじまう」
「右に同じ」
こうして俺達はそれぞれのやり方で、心ゆくまで合格を祝うのであった。
最終的に会計はボノボが頼んだものを覚えており、しっかりと個別会計をすることになった。
そして俺とアネットが酔い潰れて寝ているガス達を店の前に転がして、お開きと相成った。
また機会があれば、あいつらと一緒に依頼を受けても良いかな……そんな風に思える仲間ができたのも、大きな収穫だろう。
しっかしBランクかぁ。
これで少しくらい、エヴァに見合う男になれただろうか。
報告をしたらエヴァは、俺のことを褒めてくれるだろうか。
――よし、街に戻って一番始めにすることが決まったぞ。
「行くか、スカイ」
「キュウッ!」
こうして長いようで短かった昇格試験も終わり、俺は無事にBランク冒険者としてルテキの街に凱旋するのだった――。
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