vsヴィルレントトレント 後編
あとがきに大切なお知らせがあります!
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「……舞い踊れ」
どうやらボノボは包帯で足場を作り、身長を盛っていたらしい。
俺が知っているよりも一回り小さくなった彼女はそのまま包帯をぐねぐねと動かしながら、多彩な動きを繰り広げていた。
ある包帯は鞭のようにしならせることで攻撃の手段として用い、ヴィルレントトレントの攻撃はまとめた包帯を盾のようにして受け流す。
そして自分の背後につけている包帯を使って自身の動きを制動して攻撃を避けながら、ヴィルレントトレントの根の部分を包帯を使って拘束する。
攻撃防御、そして補助。
その全てを連動して行える彼女は、全体の状況を俯瞰しながら戦闘を優位に進めていた。
「ほら、足下がお留守だよッ!」
アネットの攻撃が、ボノボが拘束していない木の根のうちの一部を切り飛ばす。
彼女が手にしているのは、カットラスと呼ばれる片刃の剣だった。
有事の際は水上戦闘もこなせる彼女は斥候と前衛を同時にこなすことができるため、高い速度で相手を翻弄しながら戦うことを得意としている。
アネットが攻め、ボノボが補助をする。
その間に俺とミチルは、共に後ろに下がりながら魔法発動の準備を整える。
「氷結結界!」
ミチルが放った氷精魔法が、ヴィルレントトレントを周りごと氷結させる。
俺がアネットに事前に『千編の鎧』をかけていたおかげで、彼女はその氷の結界の中でも問題なく動くことができる。
「もらったっ!」
アネットの一撃が、凍っているトレントの太い枝を根元から断ち割ってみせる。
それに続く形で、俺は瞬時に脳裏に三次元型の魔法陣を構築し、ヴィルレントトレントの頭上で魔法を発動させた。
「『積層・魔力の矢』!」
頭上から降り注ぐ極太の光の矢、葉の茂っているヴィルレントトレントの頭部に直撃する。
「おらおらおらおらっ!!」
「ここが踏ん張りどころでござるよ!」
回復を終えたガスと魔法発動を終えて自身が前に立ったミチルの一撃が、ダメージを負い動きの鈍くなっているヴィルレントトレントへと襲いかかる。
ヴィルレントトレントは再び毒ガスを使って距離を取ろうとするが、ミチルの風精魔法がそれを許すこともない。
俺は積層型魔法陣で構築した『魔力の矢』を使いチクチクとトレントを的にしながら、自身の身は『対価の鎧』、攻撃を食らいそうになっている奴らには『千編の鎧』を使っていくことで固定砲台としての役目に徹することにした。
この前衛集団の中じゃ、これが一番いいだろうからな。
こうしてなすすべなく一方的に攻撃を食らい続けることになったヴィルレントトレント。 そのタフネスは驚異的で、戦闘はかなりの長時間に及んだが……
「これで……終わりだっ!」
「G……A……」
アネットの放った一撃が、いくつもの剣撃で大きく形を変えた幹をえぐり取り、その幹を真っ二つにたたき割る。
そしてヴィルレントトレントはベキベキと音を鳴らしながら上体を折り、そのまま二度と動き出すことはなかった。
「よっしゃあっ!」
「ふう……なんとかなったでござる」
「いやぁ、かなりきわどいところだったと思うけどねぇ」
「……恥ずかしい……」
最初はあんなに険悪だったガスとミチルは互いに拳を合わせ、アネットはがしっと俺の方を掴み、そしてボノボはいそいそと包帯を付け直していつもの姿に戻っていた。
皆の間に流れる空気感も、最初と今じゃあずいぶんと違う。
俺達は間違いなく、共に達成を分かち合える仲間になっていた。
「それじゃあ後は……任せても大丈夫かい?」
「おう、ちょっと集中するから周囲の警戒頼んだ」
そして俺は『悪魔の一匙』を使い、魔物避けのアイテムであるデス・アロマティックツリーを作成することに成功した。
ただヴィルレントトレントの毒ガスは俺達も長時間嗅いでいると危ないレベルの猛毒だったので、毒を吸い込まないように一緒にトレント素材のガスマスクも作成してみた。
「よし、それじゃあ最後の一息だ! 皆で合格して、サロマの街に凱旋と行こうじゃないか!」
「「「――おおっ!!」」」
デス・アロマティックツリーは見事効果を発揮し、やってくる魔物達は軒並み死んでいった。途中からは魔物達がこのガスを避けるようになったため、俺達は以前が嘘だったかのようにするすると崖を登り……そして無事落ちてきた地点まで戻ることに成功。
そこから急いで街へと向かい、無事期限内にサロマの街に到着。
俺達より遠回りをしながらも平然とサロマの街に先回りしていた試験官のパルティスに無事五人全員の合格を言い渡されるのだった――。
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