速い
「GYAAAAAAAAA!!」
地面に突き落とされたレイジードラゴンの周囲に、赤い花が咲いていく。
足で、尾でと必死になって迎撃をしようとするが、その全ては空振りに終わり、新たに生まれた隙を衝かれるだけだった。
(いくらなんでも、速すぎだろ……)
こうして近くから戦いを見ていれば、昨日のルテキの防衛戦ではまだ本気を出していなかったというのがよくわかる。
エヴァの剣閃の速度は、既に俺の視界で理解できる速度を超えている。
光がパッと点いたかと思った時には既に攻撃は終わっており、離れた場所にまた新たな光が現れる。
攻防が変わることはなく、彼女がただ一方的に攻撃を繰り返している。
レイジードラゴンの全身は切り刻まれ、至る所から血が噴き出していた。
スピード重視であるために一撃の威力はさほどではないが、さりとて数十数百と攻撃を食らえば蓄積するダメージは馬鹿にならない。
以前フェイトの戦いを見た時もすごいとは思ったが……あれと比べても次元が違うとわかる。
これがAランク冒険者か……。
「はあっ!」
エヴァの一撃が、レイジードラゴンの爪と肉の間に突き立つ。
閃光。
彼女の剣先から放たれるレーザーがゼロ距離でレイジードラゴンの体内を焼く。
「AAAAAAAAAAAAA!!」
耳をつんざく悲鳴と、辺りに漂う焦げ臭い匂い。
痛みにバタバタと足を動かしている隙を、見逃さない人物がいた。
「取ったぞ、化生」
タイミングを伺っていたツボルト子爵が、強撃を放つ。
彼が振るうのは、自分の体長を超えた大剣だ。
剣というより純粋な金属の塊とでもいった方が良さそうなその無骨な大剣は、鍛えたオリハルコンによって作られている。
ミスリルをしのぐ硬度の大剣が子爵の馬鹿げた身体能力によって振るわれることで、その鈍器に似た剣は圧倒的な破壊をもたらす。
ぐちゃり。
子爵の一撃は、レイジードラゴンの前足に三本生えているうちの一つを潰してみせた。
「GYUUUUUUU!!」
流石にこれにはたまらないと思ったからか、レイジードラゴンがそのまま足下へブレスを放つ。
事前に打ち合わせていた俺はタイミングを合わせ、自律魔法を発動させた。
攻撃を一度だけ無効化する自律魔法、『千編の鎧』。
ブレス攻撃を無傷でしのがれたレイジードラゴンが吠える。
その咆哮に釣られ、周囲から魔物達がやってくる。
だが魔物達はレイジードラゴンの下にやってくるまでに、そのほとんどを討ち取られる。
ミラ・フラウ・アンジェリカの三人が広範囲に渡る索敵と迎撃を同時にこなして数を減らし、その警戒網を抜けてきた魔物を俺とスカイで処理しているからだ。
そしてわずかな数がレイジードラゴンの下にたどり着くことができても、あっという間にエヴァになます斬りにされてしまう。
形勢が元に戻れば、再びエヴァによる蹂躙が始まる。
隙を見て放たれる子爵の強烈な一撃があるおかげで、レイジードラゴンは意識をそちらにも割かなければならない。
「GUGYAAAO!」
「させるかよっ!」
「GYAAAAAA!!」
レイジードラゴンが飛び上がって高空へ向かおうとすれば、俺はそれを積層自律魔法『滅びの光柱』でたたき落とす。
俺の切り札として用意していた積層自律魔法。
この着想の発想になったのは、スカイが魔力を空中に固定させているのを見て得られたふとした閃きだ。
スカイの横から魔法陣を見ていた俺には、その魔法陣が横から見るとのっぺりした楕円に見えた。
そして角度を変えて見れば、その度に魔法陣の見え方は変わる。
それを見て俺はようやく気付いたのだ。
マジキンでは二次元的にしか描くことのできなかった魔法陣を、この世界であれば立体的に描くことができるのではないかという可能性に。
試行錯誤の上に誕生したのが、この積層自律魔法である。
『一筆書き』で複数の魔法陣を描くこの技術は、従来の自律魔法であれば不可能な出力をたたき出すことを可能とした。
ただ積層自律魔法は全て『一筆書き』で脳内で処理する必要があるため、発動までにかなりの時間がかかる。
更に言うと本来ではない仕様の魔法を無理矢理発動させているせいか、使う度にかなりごっそりと魔力を持っていかれてしまう。
彼女の超高速戦闘に混じるのは今の俺には無理だ。
ただ空を飛ぼうとするドラゴンをたたき落とすくらいならできる。
支援を行う際には周囲の魔物への攻撃と回避がスカイ任せになってしまうのだが、スカイは文句の一つも言わずにしっかりとその力を振るってくれている。
おかげで俺としても自律魔法発動のために集中している最中に攻撃を食らうこともなく、安全につかずはなれずの距離を保つことができている。
「今からは――」
「私達も混ざるわッ!」
粗方魔物を狩り尽くすことができたからか、ミラ達も戦いに参戦し始めた。
彼女達はエヴァの攻撃の邪魔をすることなく、ごくごく自然にその超速戦闘に混ざっている。
そして子爵も、エヴァが攻撃の手を少し緩めてもおつりがくるくらいの一撃を放てるので問題なく戦闘に割って入っている。
俺が打ち落とし以外でこの輪の中に入れば……間違いなく皆の邪魔になるだろうな。
俺は一線級の実力者達の実力を見ながら、自分にできることをするため補助と打ち落としに徹することにした。
己の手足である魔物を失ったレイジードラゴンにそれをどうにかする術はなく……逃走は俺がことごとく潰したせいで逃げ場を失い。
馬鹿げたスタミナを皆で力を合わせて削ることで……体感数時間にも思える戦闘が終わり、俺達は無事レイジードラゴンを討伐することに成功するのだった――。
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