罠
――俺達の魔物漸減作戦は、上手いことハマってくれた。
魔物の中にはそれこそ人間より知能の高い物もいるが、その絶対数はさほど多くはない。
異常に気付きそうな魔物はその動きが明らかに他の個体と異なるため、狙うのも簡単だった。
連携を重視するために『紫電一閃』と俺と子爵コンビの二つに分かれ、積極的に狩っていった。
魔物が密集しておらず、湿原にある草がかなりぼうぼうに伸びているのも助かった。
おかげで魔物同士で視認できないパターンが多かったため、向こう側に気取られずに静かに戦うことができた。
このまま行けば問題なくいけるか……と思ったが、流石にそう甘くはなく。
「FRUUUUUUUUUUUUUU!!」
魔物をおよそ二割ほど潰せただろうかというところで、とうとうレイジードラゴンが自分の配下を消しているこちらの存在に気付いた。
「よし、行くぞ……ここからが本番だ」
「「「――はいっ!」」」
子爵が先頭に立ち、駆けていく。
向かう先はレイジードラゴン……ではなく。
――俺達が湿原にやって来る時に通ってきた、森の中だ。
『レイジードラゴンの強さの本質はその本体にはない。将を射んとすればまず馬を射よ。騎馬を強化することのできる騎士がいるのなら、馬を狙わない理由がない』
今回の戦闘で求められるのは皆で力を合わせて強力な敵を打ち倒すサーガではなく、ただひたすらに勝利のみである。
それ故子爵が下した判断はシンプルで、そして堅実だった。
――レイジードラゴンの率いる戦力を誘引し、可能な限り削っていく。
俺達はレイジードラゴンの脅威度が下がるまで、ただひたすらにそれを繰り返す。
「森の中では更に視界が悪くなる。各自残存魔力とお互いの距離は意識しておけよ」
既に煙玉のストックは残り二割ほどに減ってしまっている。
もう一度湿原に打って出ることを考えると、あまり浪費する余裕はなさそうだ。
俺は子爵の言葉に頷きながら、あらかじめ準備を行っていたポイントに大量の魔物達を誘引させていく。
「自然の遮蔽物を利用して、魔力を回復させつつっと……」
魔物達は森の木々をなぎ倒し、あるいは木々を無視してこちらに飛翔しながら一目散にやってくる。
統率個体の出す命令はかなり強烈らしく、魔物達は完全に目が血走っていた。
自律魔法をバカスカ使ってレイジードラゴンと戦えなくなるのは避けたい。
とりあえず森の中での戦闘では、可能な限り魔力の消費を抑えなくては。
もちろんそのための用意は、森を通る際に既に行っている。
用意をしておいたポイントまでやってくるとくるりと振り返る。
そして魔法陣に魔力を込めた。
ドドドドドドドッ!
「「「ギャアアアアアッッ!!」」」
俺の方へ向かってくる魔物達の足下で、小規模な爆発がいくつも起こる。
仕掛けていた罠が発動し、魔物達はあるものはズタズタに引き裂かれ、またあるものは衝撃によって吹き飛ばされた。
――俺が作成し大量に貯蔵しておいた地雷によって。
マジキンには火器の類は存在していないが、火薬と似たような効果を発揮させるモレモレ草という草がある。
稀少すぎて今の段階で手に入るものではないのだが、『悪魔の一匙』を使ってちょろまかせば作成は可能。
あとは陶器の中にモレモレ草をぶち込めば、即席の地雷の完成だ。
モレモレ草は魔力に反応するため、対象にわずかに魔力を送る『小さな贈り物』を使えば、任意に起爆させることができる。
爆発のインパクトはかなり強かったようで、魔物達の勢いは目に見えて減ってくれた。
俺はそのままスカイから下りて白兵戦に移り、なるたけ身体強化だけで魔物を削っていく。
純粋な身体能力だとスカイの方が高いため、俺よりあいつの方が魔物を大量に倒している。 ぐぬぬ……自律魔法を使えば負けないのに。
ある程度魔物を削ると、また後方から新たな魔物達が補充されてきた。
「スカイ、行くぞ!」
「きゅうっ!」
魔物達をまた別のポイントに誘引し、地雷を使って消し飛ばしていく。
同じことを三度繰り返すと地雷のストックが尽きたので、スカイに乗って一度空からの偵察を行うことにした。
するとそこには……。
「うーん……近付いてきてるな……」
いやいやながらも森の方にゆっくりと歩き出しているレイジードラゴンの姿があった。
魔物の数はかなり削った……このまま更に後退するかどうかは、子爵の判断次第と思い聞きにいく。
するとほとんど迷うこともなく、
「これだけ削れば十分だろう……このまま森でレイジードラゴンとの戦闘に入るぞ」
ということで俺達は魔物達を打ち減らしながらその時を待った。
そして……レイジードラゴンが、森の木々などものともせずにこちらにやってくる。
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