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今さらだけど異世界満喫! 〜気づけばアラサー冒険者ですが、ゲーム知識で強くてニューゲーム〜  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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鐘の音


「も、もし、本当にドラゴンが来たらの話っすけど……本当に、倒せるんすかね?」


 一通り街の中を歩いてから、俺達はルテキで馴染みの『鉄茶屋』という店に入る。

 といっても、スカイがいるのでテラス席だけどな。

 そこで揚げ饅頭を食べ終えてから少し落ち着いた様子のリエルが、そんなことを口にする。

「倒せるかどうか……って話なら、まず間違いなく倒せるだろう」


「ほっ……そ、そうっすよね!」


「ルテキの街で倒せるかどうかは、また別問題だけどな」


「そ、そうっすよねぇ……」


 ドラゴン……それはAランクの中でも最上位に位置する魔物であり、通常であれば複数のAランク冒険者パーティーが徒党を組んでそれで初めて倒せるかどうかというラインに断つことしかできないという、正真正銘の化け物だ。


 ゲームクリア後のぶっちぎりステータスを持つガイウスであればさして苦労することもなく倒せる魔物でしかないわけだが……大した防衛戦力を持っておらず街としての規模もさほどデカいわけではない今のルテキの街からすると、少々荷が重い相手だ。


 今の俺が全力を出したところで、倒せるかどうかは怪しい。

 マジキンならプレイアブルキャラ全員に自律魔法を覚えさせて、毒で削りながら相手の攻撃をしのぎ続けば良かった。


 ただ残念なことに、この世界はマジキン知識を使えたとしてもマジキンそのものではない。

 ターン制で必ずこちらの手番が回ってくるわけでもないし、この世界に暮らす人達は当然ながら、生きて日々の営みをしている。


 ゲームならメインキャラがおらず大したイベントも起きないからと捨てられる辺境都市だからといって、それなら別の場所に避難してストーリーを進めようとはいかないのだ。


「どうするのがいいんだろうな……」


「師匠……」


 もちろんいざドラゴンと戦うとなれば、俺は全力を出さなければならないだろう。

 そうなれば実力や自律魔法を隠すなんて悠長な話は言っていられない。

 というかこの段までくれば、もうそういう話は過ぎている。


 もし本当になりふり構わずルテキの街を守ろうとするのなら、一応方法はある。

 ――『五行相克毒カンタレラ』の自律魔法の魔法陣を冒険者達全員に配り、ドラゴンを自律魔法の毒で削りきるという方法だ。


 ただこれをすればきっと、更にひどいことになるだろう。

 『五行相克毒』を精霊魔法と組み合わせれば、色々と悪用ができてしまう。

 こいつは魔法毒であるために、解毒するのも極めて難しい。


 仮にルテキの街を守れたとしても、表と裏を問わずそれ以上の死人が量産されることになるだろう。

 それに俺も良い意味でも悪い意味でも裏の世界に目をつけられることになる。


「うーん……少し冷静になった方がいいな」


 とにかく、自分達の完結できる戦力で倒せてしまうのが一番良い。

 そうなると果たして現状戦力だけで、ドラゴンを倒すことができるだろうか。


 スカイもいるから空中戦闘も含めていいところまではいけると思うんだが……流石に俺一人だと厳しいだろう。


 フェイトと『紫電一閃』が間に合ったとして、後は領主軍か……今回はツボルト子爵も参戦するらしいので、彼も特級戦力にはなるだろう。


 彼我の戦力差を考えると……ドラゴン戦までにどこまで戦力を維持できるかが要になってきそうだな。


 そのあたりは俺が意見を具申しても上は取り合わないだろうから、エヴァやフェイト達経由で話をしてもらうしかないだろう。


「リエル」


「なんすか師匠」


「もし俺が死んだら、俺が借りてる小屋のベッドの裏を見てくれ」


「え……縁起でもないこと言わないでほしいっす!」


 ちなみに今回の戦い、リエルはDランク冒険者として後方支援を担当するらしい。

 本人は少し不満そうだったが、支援もまた戦いだと言ったらすぐにおとなしくなった。

 こいつは相変わらず、わかりやすいやつだ。


 そういえばリーゼロッテもまたこっちに来ているらしく、驚いたことに彼女も戦うつもりらしい。

 ツボルト子爵もそれを許可したというから、二人は似たもの親子なのかもしれない。


 リエル、リーゼロッテ、それに宿屋のおっちゃんや冒険者の同業者達……ルテキの街には、今まで世話になった人間が数多くいる。

 全部を見捨てて逃げる……なんてわけにはいかないよな。


 冒険者とは険を冒す者。

 無理を押して道理を引っ込めてナンボの商売だ。


 たとえキツかろうが……なんとかするしかない。

 それにまぁ……一応手もないではない。

 今後のことを考えると使わないに越したことはないんだが……いざという時にはためらわずに使うつもりだ。


「まぁ、俺達に任せておけ。魔物の軍勢は、きっちりと倒してやるからさ」


 頭をガシガシと乱暴に撫でてやる。

 不安そうな顔をしていたリエルは無表情になり、更に撫で続けているとその表情筋が少しだけ緩んでいく。

 それでも撫でる手を止めずにいると、彼女がふにゃりと笑顔になった。


「――っす!」


 こうして俺達は挑むことになる。

 幸い向こうの方も準備に時間がかかったらしく、フェイトと『紫電一閃』とは無事に合流を果たすことができた。


 緊張の糸を切らさぬよう動くこと三日目――あらかじめ合図していた鐘の音が鳴る。

 次いで聞こえてくる、地響きのような音。


 そして――魔物の軍勢相手の防衛戦が、始まった。


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