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今さらだけど異世界満喫! 〜気づけばアラサー冒険者ですが、ゲーム知識で強くてニューゲーム〜  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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止まり木亭


「おお王都よ、我は帰ってきた!」


 王都の街並みを見ながら、演劇口調で両手をバッと広げるフェイト。

 こいつの出身は北の雪山だと思うんだが……明らかにテンションがおかしなことになっている。


 でもその気持ちも少しわかる。

 ルテキの街はさほど小さいわけではないが、それでも王国で上から数えても十指に入らない程度の規模でしかない。


 当然ながら王都ベントリアはこの国でもっとも大きな街だ。

 すごい街並みとか見ると、やっぱりテンション上がるよな。


「王都に来るのは久しぶりだな……」


 俺はルテキの街を自分のホームと決めるまでは、各地を放浪しながら武者修行のようなことをしていた。

 冒険者は一所に縛られずに色んなところにいけるからな。

 強くなるためには色々と物を知っておいた方がいいだろうと色々行ってみたわけだ。


「とりあえず宿屋に行ってから飯だな。子爵の指名依頼までにはまだ余裕がある。そう急がなくても大丈夫だろうし」


 結果は芳しくなかったものの、おかげで王国の主要な都市は大抵知っている。

 当然ながら王都にも知り合いがいて、馴染みの宿屋や飯屋も残っている。

 じいさんの宿屋、まだ潰れてないといいんだけどな……。


「おっけー! 僕は肉串が食べたいな!」


「そんなどこでも食えるもんじゃなくて、王都でしか食えないようなもんとか食いにいきません……?」






 王都は東西南北四つの門と、そこをぶち抜く形で作られた大通り。

 そして直角にぶつかる大通りの間に規則的に中くらいの通りが八方に広がっており、それらの間に小さな通りがいくつも組み合わさることで迷路のようになっている。


 ちなみに初見で来ると、間違いなく迷う。

 ソースは俺だ。


 前世でも新宿なんかには苦労したが、あそこは一応わかりやすい目印がいくつもあったからな……王都の場合店の外観なんかも全然変わんないから、とにかくわかりづらいのだ。


 けど慣れてくるとショートカットもお手の物。

 フェイトが食べたがっていた肉串を軽くつまみながら目的地に行くくらいのことは朝飯前だ。


「ねぇ、こんな裏道で本当に合ってるの?」


「ああ、馴染みの深い宿屋でな。多分フェイトも気に入ると思うぞ」


 半信半疑なフェイトを引き連れてがやってきたのは、どこからどう見ても古ぼけた民家にしか見えない宿屋だった。


 よく見ると家の前に立っている樹に看板がぶら下がっている。

 以前よりも更に剥げている文字で記されている『止まり木亭』の文字に、どこか懐かしい気持ちになった。


 中へ入ると、これまた懐かしいドアベルの音。

 受付の椅子に座っているのは、以前見た時より背の曲がったご老体だった。


「いらっしゃい、何泊だ?」


「おおピンチョスじいさん、まだくたばってなかったか!」


 中に入ると、しかめ面をしながら新聞を読んでいるじいさんの姿があった。

 名前を呼ばれ顔を上げたじいさんが、目を凝らしながらジッとこちらを見つめてくる。


「んん、お前さん一体……もしかして、アルドか?」


「まだボケてはないみたいだな、じいさん」


「当たり前よ、孫の結婚式を見るまでは死ねるかってんだ!」


「どこまで生きるなんつもりだよ……」


 『止まり木亭』は俺が王都に居た頃だから……今から四年近く前に俺が泊まっていた宿屋だ。


 宿をやっているじいさんは偏屈で、へんぴなところにあるから人もまったく来ていない。

 そしてここの名物亭主がこのピンチョスじいさんだ。


 妙なところが凝り性な人で、本当に来たい人だけが来ればいいと敢えて大通りから外れたところに店を構えている変人である。


 家具から何から気に入った物を仕入れているせいでベッドの質は高く、そのわりに宿泊代金は安い。


 本人が年寄りの道楽と公言してはばからない店だが、相変わらず営業していたようでホッとする。


「なんだい、べっぴんさんまで連れて来て。お前さんも隅に置けないねぇ……ダブルでいいかい?」


「いや、セミダブルの部屋を二つ取ってくれ。それと……」


「きゅうっ!」


「こいつも部屋に入れていいか?」


 鳴いたスカイを小脇に抱える。

 王都の宿屋だとペット不可のところも多いからな。

 ここが断れると宿探しが大変なんで、できればオッケーしてもらえるとありがたいんだが……


「まぁ別にいいだろう。ただ宿泊代は一人分もらうぞ」


「ありがとう、恩に着るよ」


「それと鱗を二枚ほどくれ。綺麗な色だし、瓶に詰めて孫にでもプレゼントするからな」


「きゅいっ!?」


「ああ、後で生え替わったやつを渡すよ」


 ホッとした様子のスカイの顎下をくすぐってやってから、料金を払って店を出る。

 じいさんしかいないこの宿屋では、ご飯なんてものは出ない。


 ちなみに部屋の掃除も宿泊客がやるというセルフ式の宿屋だ。

 ただベッドつきにしては安いから、昔はよく助けられたんだよな……なんやかんやツケ払いも許してくれたりしたし。


「ねぇねぇ、僕はおんなじ部屋でも良かったんだよ?」


「お前寝相悪いからなぁ……同じベッドで寝たら風邪引きそうだし」


「失礼なっ!」


 この世界では香辛料は値が張るが、薬草などの関係からか香草は手が届く値段で買える。

 香草焼きや蒸し焼きなんかの肉料理を楽しんでからぐっすりと眠り、そして翌日。


「ふわぁ……行ってらっしゃーい」


「きゅう……」


 生え替わって抜けたスカイの鱗をしっかり回収してから、寝ぼけ眼の一人と一匹を置いてギルドへ向かうことにした。

 地味に、初めての指名依頼だ。

 気合いを入れて望まなくちゃいけないな。


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