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風神剣オラクル


 クレインはジャビエルと戦い、自身では未だ届かぬ強さの先があることを知った。

 そして彼を颯爽と助けたマスキュラーの戦いぶりを見て、久しく感じたことがなかった悔しさを感じた。


 なぜ自分は、勝つことができなかったのか。

 彼と共に戦うこともできず、この場でただ立っていることしかできないのか。


 だが無力感に苛まれながらも、彼は剣を手放すことだけはしなかった。

 それはクレインにとってのせめてもの意地だった。


 黙して語らぬオラクルは、一際強く握られたその刹那、その刀身を輝かせる。

 そして……




(これは……?)


 クレインは駆けながら、自身の背が何かに押されているのを感じた。

 アリア達の支援魔法ではない。

 その風の出所は、自身の腕に握られているオラクルだった。


 風神剣オラクルが大気を取り込み、そして吐き出して風に変える。

 コオォと尾を引くように鳴る音は、まるで剣そのものが呼吸をしているかのようだった。


 新たな生命がその産声を上げているかのような、明滅する光。


 クレインは自身がオラクルに、己の使い手として認められたことを理解する。

 それは今の自分が何よりも求めている、力そのものであった。


「おおおおおおっっ!!」


「な、なんだ、急に速く――っ!?」


 クレインが先ほど戦いの中で体得した、レベル8相当の身体強化。

 そこに強力な風の支援を加える風神剣オラクル。


 両者はそのポテンシャルを発揮させ合うことで、クレインは更なる高みへと上り詰めていく。


 クレインが剣を振る。本来であれば斬撃が届かぬほどに離れた距離。

 にもかかわらずその一撃は、ジャビエルの身体を裂いてみせる。


 物理が無効になっていても、風神剣オラクルはそれ自体が魔法効果を持つアーティファクト。


 故にジャビエルにダメージが通る。

 むしろ物理耐性に特化させ魔法耐性が普段より落ちているおかげで、食らうダメージは通常よりはるかに多かった。


「ちいっ……あいつに『御鏡箱』さえ壊されなければ、こんなことにはっ!」

 

 未だマスキュラーに与えられたダメージが大きく残っているジャビエル。

 両者の勢いは、完全に互角であった。


 クレインの風刃がジャビエルの腕を裂けば、ジャビエルが飛ばした炎の槍がクレインの足に当たる。


 両者が同じだけのダメージを受け続けるのであれば、先に負けるのは耐久に劣る人間になるのは自明の理。

 けれどこの場にいるのは、この二人だけではない。


「エクストラヒール」


「アースバインド」


 クレインの傷を癒やすのは、アリアの回復魔法だ。

 そしてジャビエルはミモザが足下に出した土の根に足を取られ、その場でたたらを踏む。


「隙ありッ!」


 そこに斬撃を放つのは、クレインの戦いの邪魔をしないよう隙を窺っていたリエルだ。

 身体強化を使っても、その速度は未だジャビエルには及んでいない。

 だが彼女もまた、一人で戦っているわけではない。


「ダークエリア!」


 ミモザによる闇魔法、空間を闇で覆うダークエリアが発動する。

 ジャビエルの視力を奪い、その間にリエルが態勢を変える。


「フラッシュ!」


「ぐああああっっ!?」


 彼女が使うのは、初級光魔法であるフラッシュ。

 ただ明かりを出すだけの魔法も、闇の中にならした視界に突如として出せば閃光弾として機能する。


「ライトソード!」


 ジャビエルの隙を見て、剣に魔法を纏わせる魔法剣で斬りつけることに成功するリエル。


「ちっ、なんて硬さだ!」


 しかし借金を作ってなんとか作った新たなミスリルの合金剣では、ジャビエルにわずかな傷を作るのが精一杯だった。

 明順応が起こり視界が戻るジャビエルの逆撃が、リエル目掛けて放たれようとする。

 だがその刹那、


「アクアミスト!」


 アリアが放った魔法が、戦場一帯を白い霧に染める。

 リエルは生じた隙を見逃さずにその場を離れ、代わりに軽く休息を取り態勢を整えたクレインが現れる。


「悪いね、一対四だけど――容赦はしないよ!」


 ジャビエルは再びクレインとの攻防を開始する。


(ちいっ、今すぐにでもあの男を追いかけたいというのに……こいつに背を向けて、そんなことはできん!)


 既に自身にまで届きうるだけの強さを持つがクレインに対し背を向けるのはあまりにも自殺行為。


 故にマスキュラーの下に向かうという選択肢を、今のジャビエルには採ることができなかった。


 クレイン以外の三人も、なかなかにいやらしい戦い方をする。

 彼女達は明らかに、勝つことを目的としていなかった。


 前衛の剣士も決して自身だけで戦うことはせず、後衛の二人はとにかく前衛の補助に徹する。

 それなら先に後衛を殺そうと魔法を仕掛ければ、それらも二人がかりでしっかりと防がれてしまう。


 勝つことはないが、負けもしない戦い。

 引くことができぬ状況下でそれでも戦い続ける、人間だからこそ行えるやり方だ。


 ジャビエルは焦りながら状況を打開しようと動くが、それでもクレイン達はまったくといっていいほどに動ずに冷静な対処を続けた。


 一進一退の攻防が続く。

 戦況はジャビエル有利だが、それもいつ傾くかもわからぬ天秤の上での話だ。


「はあああああああっっ!」


 クレインの剣は、振る度にその鋭さを増していた。

 彼はその身に風を纏い、振るう剣には風が宿り、そしてその移動は風によるアシストを受けていた。


 相手の致命の一撃を、風による押し出しで軽傷に変える。

 本来ならば届かぬ一撃を、風を使い刀身を伸ばすことで命中させる。


 まだ十全に力を発揮させることができていないからか、風神剣の効果はそこまで強いものではない。


 全ての攻撃や能力を底上げするといっても一つ一つの効果はさして強力ではなく、人によっては強くなったという実感も得られないかもしれない。


 けれど今のクレインにとって、これは何よりも有用な、かゆいところに手が届く武器であった。

 全てを高い水準で修めているからこそ、できることがいくつか増えるだけで戦術が無限に広がる。


 風による不可視の斬撃はフェイントのバリエーションを倍増させ、風による移動速度の向上は次に取り得る選択肢を増やしてくれる。


 そんなほんの少しの積み重ねが、クレインを未だ届いていなかった領域へと導いていた。


 既にマスキュラーによってダメージを蓄積しているジャビエルの動きは精細を欠いており、それ故にアリア達の支援を受けることで先ほどまでより優位に戦いを進めることができていた。


「ちっ、埒が明かんな……」


 ジャビエルは魔物でありながら、一人の武人である。

 けれど彼は敗北の二文字が頭をよぎった段階で、己のこだわりを捨てる覚悟を決めた。


 彼の最大の優先順位は、将来魔王に届きうるクレインを殺すこと。

 そのために手段を選んでいるだけの余裕は、もはや今の彼にはない。


「それならばこのジャビエル、もはや手段は選ばぬッ!」


 ジャビエルはクレインから距離を取ると翼を羽ばたかせ、そのままぐんぐんと高度を上げていった。

 いくら風を操ることができるようになったとしても、それを止める術は今のクレインにはない。


 ジャビエルは誰の邪魔も入らない超高度まで上がると、そのまま両腕を天へ掲げる。

 出現するのは、黒死の太陽。

 全神経を魔法に集中させることで、その大きさは先ほどとは比べものにならないほどになっている。


「民ごとまとめて、死ぬがいいっ!」


「――っ!? マズいッ!」


 ジャビエルが放った一撃が、民達の暮らしている民家へと落ちてゆく。

 それを見て何もせぬコトは、クレインにはできなかった。


「力を貸してくれ……風神剣オラクル!」


 彼は黒死の太陽に一人で対面し、そして下段に構えた剣を振り上げた。

 衝突する両者。黒い爆炎が辺りへと落ちてゆく。


 爆発が収まった時、そこには……


「が……はっ……」


 黒死の太陽をその身に受け、黒焦げになったクレインの姿があった。

 先ほどより高威力の一撃を完全にその身に受けたにもかかわらず、彼は未だ生きていた。 虫の息であるクレインの下へと下りていくジャビエル。


 その目に油断はない。

 彼は魔法を行使し、そのまま黒炎の槍がクレインの下へ到達しようとした時……光る拳がその炎をかき消した。


 現れたのは胸ポケットを膨らませたマスキュラーだった。

 全身がどす黒い紫色に光っており、どこか禍々しい気配を身に纏っている。


「悪い、待たせたな」


「いや、ギリギリセーフだよ。主役は後からやってくる……そうだろう?」


「――おう、こっから先は、見逃し厳禁だぜッ!」

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