棒
とりあえず辺りのデカい敵を一掃したら、打ち漏らした細々とした敵が増えてきた。
ジャブでも倒せるとはいえ、数が多いと打ち漏らしかねない。
今こそ事前に用意しておいた秘密兵器を使う時だろう。
「おおいっ! そこに立てかけてあるやつをこっちに投げてくれないか!」
「は、はいっ! んぎぎ……お、重っ! 誰か、手伝ってくれ! 潰されるッ!」
立てかけておいた俺の新たな武器を、騎士達が三人がかりでなんとかこちらへ放り投げてきた。
俺はやってきたそれを、パシリと片手でキャッチ。
感触を確かめるためにぐっぐっと何度か握り直すそれは……長さ五メートルほどの、巨大な木の棒だった。
あの櫓を作った時に余ったという木材があったので、それを使って作ってもらったのだ。
魔法的な効果が付与されていて伸縮自在だったり、自身が持っているとと重さを感じなかったり……なんて力があるわけでもない、ただ重く、そしてめっちゃ長く、どれだけ乱暴に使っても壊れない棒。
それが俺の新たな武器――不壊棒である。
「よし、やってみるか」
これだけ長いと味方ごと攻撃してしまうのが怖いが、幸いなことに今は全ての兵士達が城壁上に上がっている。
周囲には敵しかいないので、どれだけ暴れても無問題だ。
「どっ……せいっ!!」
バッドを振るする要領で、棒を思い切りスイングする。
俺の怪力に遠心力も加わり、軌道上にあった魔物達が大きな音を立てながら吹き飛んでいく。
おお、今の一撃で軽く十体はやれたんじゃないか?
「よっこら、せっと!」
そのまま右足を軸にして、不壊棒を握ったまま一回転。
握った棒はものすごいしなりながらも壊れることなく、風を切って魔物達を吹き飛ばしていく。
吹っ飛んでいく魔物達は宙を舞い、そのうちの一体は勢いそのままぐちゃりと城壁に激突した。
なんだか無双ゲーをしている気分だ。
「おい、俺は夢でも見てるのか……?」
「ああ、流石にこれは夢だろ。なんで人が棒をぶん回して、魔物がぶっ飛んでくんだよ」
夢見心地な兵士達を背に、俺は気の向くままに不壊棒をぶん回していく。
ただ何度も回転するだけでは芸がないので、時にはスイングしたままピタリと止めたり、またある時は棒を振り下ろして一直線上にいる魔物達を一網打尽にしていく。
やってて楽しいが……この武器は雑魚狩り専門だな。
たしかに殴るより威力は出てる気がするが、とにかく狙いがつけづらい。
おおざっぱに範囲攻撃をするのに使うくらいの感覚がちょうど良さそうだ。
不壊棒をぶんぶんと振り回し、周りにいる雑魚達を一掃していく。
気合いを入れて振ってみればサイクロプスでも問題なく吹き飛ばせたが、一旦棒を止めて力を込め直さなくちゃいけなかった。
とまあそんな風に使い心地を試して改良点を考えているうちに、俺の周囲には吹き飛んだり弾け飛んだりして原型を失った魔物達の死骸が大量に積み上がっていく。
時に棒を手放してぶん殴って倒したり、とりあえず棒を投擲して投げやりみたいにして使いながら、戦い続ける。
途中で出力をレベル8に落としたので、さほど体力を使わずにガンガン魔物の数を減らしていくことができた。
「……よし、こんなもんか」
とりあえず辺りにいる魔物をざっと一掃したことを確認してから、再び大跳躍。
城壁の上に戻り、不壊棒を横に倒してからぐるりと肩を回す。
「ふぅ……良い運動だったぜ」
「め、めちゃくちゃですわ……」
アリア達がこちらを呆けたような顔をして見つめている。
今は公的な場なので、俺の方もしっかりとした態度を取っておいた方がいいだろうな。
「アリアベル様、魔物の数は討ち減らしました」
「……?」
お前は何を言っているんだ、という感じできょとんとした顔をされる。
かわい……じゃなかった。
ほら、周り周り。
「――はっ! ご苦労でしたわマスキュラー、これだけ数を減らすことができれば、後はずいぶんと楽になるでしょう」
俺の視線で事情を察してくれたらしいアリアに、とりあえずうやうやしく頭を下げておく。
「す、すごい。アリアベル様はあの男を手懐けているのか……」
「あの猛獣のような男を……つまりアリアベル様は調教師ということなのか……?」
なんかよくわからない結論に至っている兵士達を放置して、俺はそのまま不壊棒を手に持って城壁の上の方へに飛び乗った。
俺の仕事はまだこれで終わりじゃないからな。
「魔物が散ったことで、東西の門も少しヤバいらしい。なんで俺はそっちを片付けてくる。アリアベル様、後のことは頼みました」
各個撃破ができるように行った魔物の分散。
あれをやったせいで魔物達が各地に散っていて、今まで無事だった東西の門が魔物の襲撃を受けるようになっているのだ。
そこから流れた魔物達の一部が南門の方にも言っているので、現在三方でも防衛戦が始まっている。
オルドの街の防衛は激戦地になる北に戦力を集中させているため、他の三方は比較的手薄だ。これ以上魔物達の動きが激しくなれば、守り切れるかはわからない。
防衛戦は一方でも抜かれたら一発でアウトだ。
そうなってしまわないよう、俺は各地を転戦する必要がある。
城壁を跳ねるように移動すれば、俺だけなら移動に大した時間はかからない。
俺が少し気張れば、多少の穴は埋められるだろう。
「……わかりましたわ。マスキュラーさんも、どうかご無事で」
「おう」
足に力を込め、跳躍。
俺はそのまま城壁を跳ねながら、高速で他の方角の救援に向かった。
準備運動がてら四方で暴れ回りいい汗を掻いたなぁというタイミングで、魔物の襲来のピークが終わる。
無事救援を完了した俺が一息ついていると……ドッゴオオオオンッ!!
突如として爆発音が鳴る。
聞こえてきたのは街の外……ではなく、内側。
今回の魔物に竜系や鳥系の魔物は入っていなかった。
となるとあれは……と俺が考えているうちに、爆発的な魔力の高まりを感知する。
どういうことだ?
いきなりフルスロットルで戦いだしたのか?
反応がいきなり現れたように……しまった!
魔力反応を隠蔽する類いのアイテムか!
それが隠しきれなくなるほどの反応となると……急がないとマズいッ!
「衛兵!」
「は、はいいいっ!」
「俺はクレイン様の救援に向かう。お前達はここで残敵掃討を続けろ!」
「……はっ!」
兵士達は少し逡巡してから、顔を強張らせながらゆっくりと頷く。
領主が戦っていると聞き助けに向かおうと思い、そして自分達の力が足りないことに歯噛みしたのだ。
クレインのやつ、本当に慕われてるんだな。
俺も頷きを返してから、ますます音と閃光の激しくなっている街の中央へと急ぎ駆ける。
……死ぬんじゃねぇぞ、クレインッ!




