会食
おやつというにはいささか多すぎる軽食を食べ、屋敷に戻る。
クレイン達の会食にお呼ばれしたので、軽く筋トレをして腹を減らしてから向かうことにした。
兄妹水入らずの夕食に入っていっていいものだろうか。
……いや、いいか。何回か食ってるし、もう俺も兄弟みたいなもんだろ(暴論)。
食事会は終始和やかに進んだ。
ただ今回は俺とアリアが並び、その向かい側にクレインが並ぶ形になった。
クレインは侯爵家の当主だし、こっちの方が正しい感じがするな。
今回はフレンチというよりイタリアンっぽい感じの、海の幸が登場するコースであった。
このグランダッド王国の領土はかなり広いため、海産物もある程度は持ってくることができるらしい。
もっとも生魚を用意するのはめちゃくちゃ大変なので、基本は塩漬けにしたもんらしいが。
ただ魚は正直街でもかなり上等なレストランにいかなくちゃ食えないような代物だ。
俺もこの機会を逃せば次にいつ食えるかわかったもんじゃない。
(どうする? コース料理ってパン以外のおかわりもできるのか……?)
とりあえず試しに言うだけ言ってみるかと考えていると、アリアが魚のムニエルを前にして一瞬苦しそうな顔をしたのが横目に見えた。
恐ろしく早い表情変化……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「アリア(ぼそっ)」
「な、なんですの(ぼそっ)」
「無理そうなら俺が食うか?(ぼそぼそっ)」
「……お、お願いしますわ(ぼそぼそっ)」
「おっけー(ぼそぼそぼそぼそぼそぼそっ)」
「あひいぃっ!?」
めっちゃぼそぼそしながら諾意を示すと、なぜか彼女は上に跳ねた。
ただ当然ながらテーブルがあるので、膝が思い切りガンッとテーブルにぶつかる。
恥ずかしかったからか、こっちをキッと睨んでから覚悟を決めた顔をして……フォークで魚を刺し、こちらによこしてくる。
「……どうぞ」
「お、おう」
てっきり皿ごと渡されるもんだと思ってきたが、なぜか今俺はあーんをされている。
一体これはどういうことなんだろう?
あれ、俺今日誕生日だったっけ?(錯乱)
「あーん……」
差し出された魚をもぐもぐと食べる。
当然ながら味なんかまったくわからない。
見ればアリアは顔をゆでだこみたいに真っ赤にしていた。
多分だが俺も、負けないくらい顔が赤くなっているだろう。
俺は魚を咀嚼しているうちに、少しだけ冷静さを取り戻していた。
スッと顔を上げると、そこにはこちらを見てニコニコと笑っているクレインの姿がある。
「アリアと随分仲良くなったんだねぇ」
こちらを冷やかすような態度を取るクレイン。
こういうのは相手の挑発に乗ったら、努めて冷静な態度を取り続けるのが大切だ。
「ああ、間接キスができるくらい仲良しだぜ」
「か、かんせちゅ!?」
だが悲しいかな、今の俺は一人で立ち向かっているわけではなかった。
隣にいる相方の煽り耐性がゼロだったおかげで戦わずして敗北が決定した。
ここで僕が投了!(やけくそ)
「一応探してはいるんだけど、アリアの結婚相手ってなかなか見つからなくてね。できれば政略結婚はさせたくなかったから、上手いこと恋愛結婚ができれば……なんて思ってたんだけど、まさかこういうことになるなんてね」
「こ、こういうことってどういう意味ですか、お兄様!?」
「それはもちろんそのままの意味だよ。アリアはマスキュラーのこと、嫌いなのかい?」
「き、嫌いではありませんが……た、たしかに格好いいところもありますし、頼れる殿方とは思いますけど、でもまだ私、心の準備が……(ごにょごにょ)
口の中で小さく呟いてただけなので後半の声はまったく聞こえなかったが、どうやら嫌われてはいないらしい。
我ながら取り繕わずにいつも自然体だからな、嫌われてないのは助かった。
「おい、それくらいにしといてやれよ」
「うん、それもそうだね。アリア、今のは全部冗談だから真に受けなくて大丈夫だよ」
「たっ、質の悪い冗談はやめてくださいまし!」
しっかしアリアも相変わらず慣れないよなぁ。
毎度いいように兄のおもちゃにされちゃって。
……よし、決めた。次の稽古では久しぶりに、クレインのことをボコボコにしてやることにしよう。
「ん、なんだろう、急に寒気が……?」
首を傾げるクレインとデザートに舌鼓を打てば、飯の時間も終わりだ。
今日は思ったより身体を使ってないから、もう少し身体を苛め抜くか……と思っていると、 んんっと一度喉を鳴らしてクレインが真面目な表情を作った。
空気が変わったからかアリアも背筋を伸ばし、俺はいつも通りの態度でやつが話し出すのを待つ。
「――騎士団の斥候が、森の中に魔物の群れを捕捉したらしい。本当に来たよ、マスキュラー」
「ああ、だから言っただろ」
ということはそろそろ、戦いの時節がやってきたってことだ。
今まで俺の主戦場は街だったし、相手にするのも基本は人だった。
だからあまりやりすぎないよう気をつけなくちゃならなかったが……魔物相手なら、どれだけ暴れても構わないだろう。
魔物の種類は森に集まっていると言うこともあり、群れの中身は獣やトカゲ、稀にアンデッドといった感じらしい。
通常系統が違う魔物はつるまない。それらを従えてるところを見るに、相当にやる魔物が率いているのは間違いない。
相手にとって不足無し、腕が鳴るぜ。
……おっと、思わずゲーム内のマスキュラーみたいな独白を言ってしまった。
……いや、俺がマスキュラーだから別にいいのか。
「避難指示は出したけど、領民はほとんど皆オルドに残ることを選んだからね……長いこと籠城をするのは難しい。なるべく早くケリをつけるつもりだよ」
「俺も出るか?」
「いや、相手はかなりやるやつなんだろう? それなら不測の事態に備えて街で待機しておいてほしい」
どうやらクレインの方も残るつもりらしい。
まあこいつの相手は魔物の群れってよりはそれを率いるボスの方だからな。
その対応で間違ってないだろう。
「とりあえず騎士団の半数を出発させて、街に来るまでに可能な限り魔物を討ち減らしていくつもりだ。それでも接敵までは数日もないだろうから、今のうちに鋭気を養っておいてほしい」
「おう」
クレインがアリアの方を向く。
向けるのは兄としての顔ではなく、ローズアイル侯爵としてのそれだった。
「アリアは北の城壁で魔法部隊を率いてくれ。恐らく一番の激戦になるだろうから、ここには信頼できる人間を置いておきたい。指揮の仕方はわかっているね?」
「――はい、お任せくださいッ!」
「無理だけはしないように。よし、それじゃあ今日の話は終わりだ。明日からは本格的に動き出すことになるから、二人とも今日はしっかり休んでおくようにね」
クレインはそう言って立ち上がると、そのまま早足で食堂を後にした。
どうやら相当に忙しいらしい。
……って、そりゃそうか。となると相当無理してこの団らんの時間を作ったのかもな。
こうして俺達は来るべき決戦に備えて動き出すことになる。
そしてそれから三日後……オルドの街に早鐘が打ち鳴らされる。
城壁に上れば、視界に移るおびただしいほどの魔物の群れ。
数を削ってこれか……おもしれぇじゃねぇか。
オルドの街の防衛戦が今、始まる――。
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