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遠い世界の君から  作者: 凍った雫
白き王と黒き剣士
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つまるところの話

コンコン——


 扉をノックする軽い音が響き渡った。


 場所はニア達の部屋の前。ノックをする女性の背には大きくともそれほど中身が詰め込まれていない鞄が背負われていた。


 扉の前に立つ女性はどこかそわそわと落ち着きのないそぶりを見せており、だがその時不意に扉のノブがゆっくりと回転し始める。


 そうして扉は外の空気を中へと招き入れながら開いていく。部屋から漏れる微かに暗い光の中へ女性は部屋の中へと足を踏み入れ、そうして扉は静かに閉まった。








「…は?」


 ニアはつい呆気に取られた声を漏らしていた。


 扉を開き、中へと足を踏み入れた現在。部屋の中にはオーゼンの他に、意外にもメロウとタルナローテが座り込み、話をしていた。


 だが、ニアが声を漏らしてしまったのは中に2人が居たからなどと、そんなことが原因ではない。何故なら——


「どうかしましたか?“ニア様”」


 瞬間、ニアは当然のようにそう声を発したメロウの隣に座るオーゼンを無理矢理に立ち上がらせ、部屋の端へと引き寄せる。


 ニアの突然の行動に「まぁわかってたけど」と言わんばかりに苦笑いをするオーゼンだったが、であれば話は早い。


「状況の説明を!迅速に!」


 柄にもなくわずかに声を荒げながらそう問いかけるニアにわずかに気圧されながらも、オーゼンはニアのいなかった1日にあった出来事を説明するのだった。









「…そうか、アガルダさんが」


「そう。で、この2人が協力者になった。信頼に足るのかは俺の中でもまだ模索中だけど、どうしようもないから信じるしかない」


「…なるほどな…。だが、素性がバレた以上こちらとしても念の為の警戒をしたいんだが、あんたらは何か言葉以外に信頼に足るものを持ってたりするのか?」


 事態は把握した。騒ぎ立てられていたその一部の正体が罪人の処刑についてだということ。

そうしてその処刑された者は、ニア達が潜入するにあたり最も警戒する3人のうちの1人であった、アガルダだということ。


 だが、どのような経緯を得て自分たちの正体を知ったとしても、言葉ではいくらでも嘘のつきようはある。


 そうしてニアが当然の警戒を露わにした時、メロウはその反応をされることがわかっていたと言わんばかりにその場から立ち上がり、


「これに見覚えはありますか?」


「…!それをなんでメロウが…」


 差し出されたのはいつかの虫の媒体であったビー玉であり、その中に映し出される不鮮明な光景がそのビー玉が本物であるということをニア達へと理解させる。


 そうしてニアの反応にメロウは予想通りと言わんばかりに安堵の息をつき、


「よかった。ご存じなのですね。であれば話は早いです。私たちはこの玉に映る風景、その箇所を知っています。私たちはニア様に信用していただける何かを持ち得てはいません。なのでこれは交換です。ニア様が私たちを信頼してくれるというのなら、代わりに私たちはニア様達が今最も注意を払っている、その元凶の居場所をお伝えしましょう」


 何故映る場所を知っているのか。何故ニア達が知っていることを知っているのか。頭の中には瞬時にいくつもの疑問が湧き上がり後をたたない。


 だが、もし本当にその風景の場所を提示するというのであれば、それはつまり少なくともメロウ達は虫使いと協力関係ではないということの証明である。だからこそ、


「…」


「決断はすぐに問いません。私どもはニア様がどのような決断を下そうと、その正体を辺りへと明るみにすることはありませんので、どうぞ慎重な判断を」


 その言葉にニアはすぐさま反応を示すことはせず、分かりきっていたその反応に、メロウもまた事前に備えておいた言葉を伝えていく。


 そうして交渉は一時中断。かと思われたその時、


「いや、決断は今出た」


 メロウの言葉を遮るように声を発したのは、他の誰でもないオーゼンだった。


 オーゼン自身も、この提案自体が嘘なのだという可能性を思い浮かばなかったわけではない。だが、もし本当にメロウ達が風景の場所を知っており、虫使いを打倒することによりこれ以上の被害が出ないというのなら。それ以上迷う理由はどこにもない。


 そうして声を発したオーゼンへニアはわずかに驚いた表情で振り向き、だが揺るがない意志を宿したその瞳を見るや否やその場で小さく笑って見せる。


 そうして同時に一つ、協力関係を築く上で必ず伝えておかなければいけない事項が存在する。


「…メロウ。タルナローテ。俺たちは王位を前代王の後継人の者に戻そうと思ってる。それを聞いても、協力の申し出は揺るがないか?」


「…えぇ。アガルダ様な命をかけた。それは即ち今の王に多少なりの不満があったということ。ならば、私たちはアガルダ様の意思を継ぎましょう。アガルダ様が誠心誠意支えていた、前代王の後継人を信じてみせましょう」


 その言葉は予想していなかったのか、メロウのオーゼンの言葉に対する反応はこれまでのように迅速なものではなく、だが次の瞬間にはその言葉をも了承する言葉を返してみせる。


 キッパリと言い切るメロウにはいつものような無関心な感情は含まれていなかった。そこにいたのはただ、自身の信じた人が支えた者を信じるという、言葉通りの信頼だけだった。


 そうしてその返事を聞いたオーゼンもまた、その場で安心したように小さく笑みを浮かべて見せ、


「なら交渉成立だ。それと、早速の質問だけどメロウ達がその玉を持ってるって事は…」


「えぇ。おそらくオーゼン様方の予想通り、この城に住むすべての女性が被害に遭っている可能性が高いです。我々は偶然部屋にいらしていたアガルダ様が見つけてくださったのでことなきを得ましたが…いえ、もしかすればそれよりもずっと前から潜んでいたのかもしれませんね」


 何を聞こうとも名前が出てくるアガルダに、ニアは改めてオーゼンから聞いていた通りの無茶苦茶な勘をしていたことを理解し、そうして困惑したように顔を顰めてみせる。


「…ほんと、聞けば聞くほどなんかの天啓を持ってないと辻褄が合わないんだが」


「そうですね。アガルダ様も、自身の生まれ持った勘に対し不便さを物語っていました。「生まれながらに人一倍物事に敏感だったが為に、幼い頃は友達の1人すらできる事はなかった」と。そして、「そんな私を差別せずに慕ってくれた唯一の恩人がカラクリア前代王、ベネッサ様であった」とも」


 慣れた反応なのか、何処となく笑みを浮かべながらラノアはそう語り、そうして用が済んだからかその場からゆっくりと立ち上がる。


 その動きに連動するように隣に座っていたタルナローテもまた立ち上がり、そうして2人はニアとオーゼンへと目を向けると、


「さて、それでは早速ですが答え合わせといきましょうか。ここに写っている風景。それは端的に、“禁域の最深部”に他なりません」


「それはつまり…」


「えぇ、犯人は、——“禁域の中に住っている”」



———日も暗くなった頃、ニアとオーゼンは去り行くメロウ達の背中を見つめていた。


 明かされた虫使いの居所。何処となくそんな予感はしていたとはいえ、実際に明かされてしまってはやはり困惑してしまうものだ。


 禁域の中からどうやってニア達の存在を知ったのか。禁域の中に引き篭もったとして、順当に生活ができるほどのリソースがあるのか。


 否。それは不可能であり、その扉の向こう側を知らないとはいえ、食料もまた食べれば減る。だがライラットの言葉とメロウの言葉を合わせて考えるとすれば犯人は数年前から一度として扉から出てきてはいない。


 ならば、その可能性はもはや必然——いや、初めから思いついてはいた可能性しか残されていない。


「これでほとんど確定したな」


「そうだな、要するに——」


 と、ニアとオーゼンは互いの考えが一致したことを示すようにその目を合わせると、


「「虫使いと“国王”はグル」になってる」


 突き止めたその可能性に、ニアとオーゼンはその目を合わせるのだった。

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