水中戦闘
あれからアキツシマで過ごすこと二週間ほど。
幾度かアンコウの改良を繰り返すと、搭乗の快適性もずいぶんとマシになってきた。
「殿下、乗り心地はいかがですかぁ?」
「正直なところ、あまりいいとは言えないけど……前と比べれば、これでもずいぶんとマシだね」
とりあえずの関係性構築をしてきたトッド達は、一度リィンスガヤへと戻ることにした。
もちろんその間にも何もしないなどというもったいないことはせず、出航してからの時間はアンコウの水中戦闘機動の訓練に移る。
水中では水の抵抗があるため、武器を引き戻す瞬間の隙がどうしても大きくなってしまう。 武装が細長い銛だけだと手が足りなくなることが多かったため、別の機動鎧に使っていた短剣をいくつか装備しながらの潜航だ。
ちなみに短剣と言っても、普通の人間が持つ直剣くらいのサイズはある。
ヤマタノオロチという今まで封印することしかできていなかった化け物を倒したことで、トッド達への態度もがらりと変わっており、彼らが帰りに乗っている船は行きもずっと上等なものだった。
早く船の中でゆっくりしたいな……と思いながらも、トッドは目の前に広がる海原を見つめる。
アンコウそのものの動作も、海中戦闘でのイロハもある程度はわかるようになってきた。
やはり地面があるところの方が戦いやすいため、比較的底の浅い海を選んで航行してもらっている。
トッドは時折り水中遊泳をして泳ぎの訓練もしながら、周囲に敵の魔物がいないか探し始めることにした。
「できれば空気が切れる前に、もう一回くらい戦っておきたいな」
ちなみにアンコウの水中での稼働時間はおよそ一時間ほど。
それを終えると呼吸用の空気ポッドを入れ替える必要があるため、一度陸へ上がる必要がある。
「おっ、いたいた」
トッドが海中を探すこと数分ほど、魔物が現れる。
見えたのは五匹のマーマンだ。
少し数が多いが、あの程度であれば十分許容の範囲内だろう。
トッドは一度ぐっと地面に力を込めてから、飛び上がる。
人間の力をはるかに超えているアンコウによる跳躍は、彼我の距離を一瞬のうちにゼロにした。
トッドは接近と同時に銛を突き出し、マーマンのうちの一匹の胴体に突き刺した。
手元で強くスライドさせて突き込めばその威力は高くなる。
銛の先端は容易くマーマンの鱗を貫き、その肉体を貫通してみせた。
引き戻しながらトッドの接近に気付いたもう一体のマーマンの頭部めがけて短剣を突き込む。
水の中に赤い花が咲き、一瞬のうちに海に流されてゆく。
「やっぱり、海だと突きが一番楽だねっ!」
水中抵抗を考えると、動作は小さければ小さいだけいい。
振り下ろしのような大きなモーションは、放ってもかなり威力が落ちてしまう。
だが突き込むだけなら、身体の動きも最小限で済ませることができる。
あっという間に二匹を倒したところで、残る三匹も完全な迎撃態勢に移る。
マーマン達は三匹とも銛を持っている。
「ギギャアオッ!」
海中のせいで聞き取りにくい鳴き声をあげながら迫ってくるマーマン達。
連携の意識はあるからか、三本の銛を微妙に違った位置に突き込んでくる。
全てを回避するのは困難と即座に判断し、引き戻していた銛で一本を受ける。
そしてそこにできたスペースに強引に自分の身体をねじ込みながら前に出る。
そのまま銛を引き戻そうとするマーマンの頭に短剣を突き込み、ストラップで固定している銛を力任せに引き戻す。
そして近くにいる方のマーマンめがけて銛を放ち息の根を止めてからそのままマーマンの身体を前に押し出した。
するとズブリという手応えがあった。
マーマンが放った突きが、マーマンの死骸へと突き立ったからだ。
だが貫通するだけの威力はなかったらしく、銛は身体の途中で止まる。
トッドはひょいっと顔を出すと、そのまま銛で最後の一体の頭部を貫通させた。
「うん、水中での戦いにもずいぶん慣れてきたかな」
トッドは念のためにと一度浮かび上がり、船の下へ向かうことにした。
次は泳ぎながら魚の魔物と戦ってもいいかもしれないな……などと思いながら。




