vsヤマタノオロチ 9
タケルが騎乗するシラヌイだけではない。
それ以外にもいくつもの機動鎧が垂直状に壁面を駆け、こちらへと跳び上がってくる。
「ご無事ですか、ミカゲおじいちゃん!」
「だ、大丈夫だ!」
「離れていてください! ローズ行くよ、合わせて!」
「私に命令……しないでっ!」
タケルの赤の機体と対をなすように酷似した青の機体――アリアケに搭乗するローズがヤマタノオロチへと駆けていく。
「邪魔――そこをどけっ!」
彼女は駆けながら、未だにヤマタノオロチ相手にまともに攻撃を通すことができず、逃げ続けている大名とその家臣達に叫んだ。
その迫力のある声に、大名達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
タケルが右から、ローズが左から切り込む。
それに対応するために三つの首のうちの二つがタケルへ、もう一つがローズへと動いた。
「ギャアアアオッ!」
「――タケルッ!」
後ろに走って後退しながらも、ミカゲは叫んだ。
首が光るのは、魔法発動の兆候。
先ほど武士達の命を容易く散らしてみせたあの一撃を食らっては、タケルの身体が保たない。
思わず後ろを振り向いたミカゲだったが……彼が想像していたような事態にはなっていなかった。
「おおおおおおおっっ!!」
そこにいるのは、ヤマタノオロチが放つ魔法を驚異的な反射神経で避け続けるタケルの姿だった。
火も水も風も、あらゆる攻撃が紙一重のところで避けられ続ける。
タケルは機体に傷一つつけることなく接敵、そして剣を使ってヤマタノオロチの足下に斬り付けてみせる。
先ほどまでは攻撃がまったく通らなかったヤマタノオロチの皮膚は容易く避け、そこから赤黒い血が噴き出した。
苦悶の声を上げながら再び魔法を使うヤマタノオロチ。
けれど意識が完全にタケルに向いたところで、ローズの連撃が襲いかかる。
再び血しぶきを上げるヤマタノオロチ。
そして苦しむ大蛇の頭に、矢が突き立った。
見れば穴を上ってみせた機体のうちの一つが、光の矢を放っていた。
見事頭を射貫いて見せたその矢の腕は確かなものがあり、タケルやローズの動きを阻害することなく的確に攻撃を当て続けている。
そして攻撃をしているのは、タケルやローズだけではない。
彼らが疲れて動きが鈍ったと見るや、それと入れ替わるようにまた別の機体がヤマタノオロチに斬りかかってみせる。
武士達が命の覚悟をして突っ込んでいったあの猛攻を、機動鎧に搭乗するリィンスガヤの兵士達は容易くすり抜け、いなしてみせている。
そのあまりの光景に、ミカゲは途中で走ることを忘れその場に立ち止まってしまった。
「リィンスガヤの機動鎧……まさかここまでとは……」
彼が再び駆け出そうとすると、その時に隣にはどこかぎこちない動きをする、傷だらけの機動鎧があった。
ミカゲはそれが、リィンスガヤ王子であるトッドが乗っていた機体であったことに気付いた。
「流石にそこだと危険です。見るとしても、もう少し離れたところで観察していただけると」
「あ、ああ……わかった」
ミカゲはその機体を見て、そしてトッドがリィンスガヤで一番の機動鎧乗りであることを思い出し、ヤマタノオロチとの戦いがどれだけ激しいものだったのかを悟る。
(これは……我が国も波に乗り遅れてはいけないな……)
トッドと共に岩陰に隠れているミカゲは、タケルがヤマタノオロチの最後の首を切り落とす様を見たことで決めた。
今正しく、自分は時代の流れの移り変わりを肌で感じている。
即刻リィンスガヤと国交を結び、機動鎧の技術をこちら側にも導入すべきだ。
そのためなら、ある程度不利な条件であっても飲み込むべきだろう。
(……いや、不利にならぬ方法が一つだけある)
リィンスガヤの技術を供与してもらうにあたり、最適な方法。
それは間違いなく、新たなアキツシマの国王をタケルにすることだろう。
リィンスガヤとアキツシマの血を共に引くタケルであれば、交渉ごとの際に足下を見られることもない。
リィンスガヤの王族は家族愛が強いと聞くし、恐らくそれが一番両国にとって穏当な解決方法になるはずだ。
こうしてヤマタノオロチ討伐は無事に終了し。
ミカゲは新たな皇家の跡継ぎとして、タケルの存在を強く胸に刻むのだった――




