八つ頭
エズの洞窟に辿り着き、ひとまずの休憩を取ることにしたトッド達。
機動鎧のメンテナンスを行いながら、襲撃がないか警戒を続けていく。
巨大な機動鎧の集団を相手にしようとする生きの良い魔物はいないらしく、周囲には生き物の気配が感じられなかった。
なので聞こえてくるのは、森のざわめき程度。
魔法を使って聴力を強化してみると、向こうで塊になっている大名達のこそこそ話が耳に入ってくる。
「機動鎧……まさかこれほどとは……」
「タイヨウは一体何と馬鹿なことをしたというのか……今すぐ飯島ハルトを本国に呼び戻して……」
「どうにかして機体を手に入れ、その解析を……」
(なかなか不審な話が聞こえてくるなぁ……)
距離を離しているから聞こえないとでも思っているのだろうか、大名達は非常に饒舌だった。
魔物素材を使った機動鎧で強化を使えば、遙か先の鳥のさえずりまで聞くことができる。 トッドには彼らの腹黒い悪巧みが一から十まで筒抜けだ。
だがもちろん全ての大名が悪い企てをしているわけではない。
中にはしっかりとリィンスガヤと友誼を結び、技術提供を頼むべきだと主張する者もいた。 そして自分の考えをここでは述べない慎重派や日和見主義の人間もいた。
トッドはざっくりと顔と名前を一致させ、後で何かに使えないかとメモ書きに残しておく。
タケルの王位継承権問題をなんとかするには、大名の支援は必要不可欠だ。
巨大な国の大名ともなればその影響力と兵力は大きなものになる。
ヤマタノオロチ討伐が終われば、次は機動鎧の実益と脅威を絡めた交渉の時間になるだろう。
だがそれも全てが無事に終わってからのこと。
「皇様、一つ相談が……」
トッドはタケルと話をしているミカゲに一つの提案をする。
ミカゲはそれを快く受け入れたのだった――。
エズの洞窟に入り大名達の姿が見えなくなってから、トッドは皆に一度機動鎧を降りるよう命令した。
人の目の入らないところで、改めて作戦会議を行うためだ。
「ヤマタノオロチを相手に狭い空間だと、機動力で勝る僕らが不利になる。なので戦闘になった場合、基本的には洞穴の外に出てから袋だたきにする作戦で行く」
作戦会議のメンバーは、今回ヤマタノオロチ討伐のためにリィンスガヤから引っ張ってきた人員全員だ。
その内容はライエンバッハ・タケル・ローズ・トティラ・ガールー・ハルト・レンゲ・ランドンである。
強大な魔物との戦闘では、純粋なユニットの数にあまり意味はない。
むしろ数が多くては、お互いの機動力を殺してしまう可能性すらある。そのための少数精鋭だ。
「殿下はヤマタノオロチとの戦闘になる、と考えているのですか?」
「現在ヤマタノオロチの封印はかなり弱まっているということだった。僕としては多少強引に封印を破ってでも、ヤマタノオロチをここで倒してしまうつもりでいる」
その言葉に、皆が言葉を失う。
まさかトッドがそこまで強引に事を進める気だと思っていなかったからだ。
トッドは皆に淡々とあり得る未来を告げる。
このままでは近い将来、ヤマタノオロチの封印が解かれ、完全復活を遂げてしまうこと。
そして現状のアキツシマにはそれを倒すための有効な手立てがないため、恐らく倒すまでには恐ろしいほどの損害が出るであろうということ。
彼の言葉に、ハルトとレンゲは顔をしかめながらも頷く。
「たしかに、現状の強化魔法と近接戦闘だけで倒すには膨大な人命が必要になるだろうね……」
「ヤマタノオロチの力が伝承に聞く通りだとすれば……たしかに国の一つや二つ程度なら飲み込んでしまうかもしれませんね……」
アキツシマ出身の二人の言葉には重みがあった。
少し空気がどんよりとするが、トッドはそれを吹き飛ばすように明るく笑う。
「でも僕らが本気を出せば、ヤマタノオロチを倒すこともできるはず。そしてそうすれば、今後起こるであろう壊滅的な被害を事前に防ぐことができるってわけ」
皆がトッドの顔を覗き込む。
気負った様子もなく、トッドは続けた。
「そして倒し切れれば、ヤマタノオロチの素材が手に入る。それが何を意味するか……ハルトならわかるよね?」
「伝説の魔物の素材で一体どんな機動鎧ができるのか……考えただけでよだれが出てきちゃいますねぇ」
本当によだれを垂らし始めたハルトの口を、レンゲが首を振りながら吹いてあげる。
夫婦漫才を見せられることで、場の空気が少しだけ和らいだ。
トッドは口を開く前に、ギュッと拳を握る。
その拳がわずかながらに震えていることに気付いたのは、付き合いの長いライエンバッハだけだった。
怖くないわけがない。
けれどそれでも自分は、頼りになる兄になると誓ったから。
トッドは己の恐怖を押し殺し、潰し、消し去ってから、力強く拳を振り上げた。
「だから僕らでヤマタノオロチを倒して、素材を独占してやるんだ。どうだい、心躍るだろ?」
トッドの言葉に否と言う戦士は一人もおらず。
こうして一行は、意気込みを新たにエズの洞穴へ潜っていくのだった。
道中の魔物の襲撃などは物の数にも入らず。
あっという間にヤマタノオロチが封印されているという封龍の間に辿り着く。
ギイッと扉を開いた一行を待ち受けていたのは……身体を縛る瑠璃色の鎖を引きちぎらんとしている、八つ頭の龍であった――。




