ヤマタノオロチ
ヤマタノオロチという魔物が一体どのような存在なのかは、実はよくわかっていない。
その魔物が実際に動き回っていたのは、今より遙か昔の話である。
そして封印されて被害が出なくなってから既に何百年もの時が流れている。
当然ながら、当時の被害を覚えているような者もおらず。
伝聞は人から人へと伝わるうちに、内容が薄れたり、尾ひれ背ひれがついていったと思われる。
そのためとんでもないような話も多いヤマタノオロチ伝説ではあるが、いくつかわかっていることもある。
まずそもそも、ヤマタノオロチは八つの頭を持つ龍型の魔物である。
龍型の魔物――これらを総称してドラゴンと呼ぶ―とは、魔物の中でも格が違うとされている、一つ抜けた存在だ。
ドラゴンは強力な魔法耐性を持ち、無尽蔵とも思えるだけの馬鹿げた体力を持っている。
通常は騎士団単位で接敵し、数多の被害を出しながら持久戦でなんとか勝利を収めることが多い。
けれどトッド達は、そのヤマタノオロチを少数精鋭で倒そうとしていた。
(通常アウグストゥスでは、ヤマタノオロチのイベントにリィンスガヤとして参加することはできない。だから今回は今までと違って、ヤマタノオロチに対するデータがあまりにも少ない)
山の民の征服とは違い、ヤマタノオロチの封印が解けるのは、本来であれば主人公が行動が可能になるよりも以前のタイミングで起こるイベントだ。
故にプレイヤーは事後になってからそのイベントの概要を聞くことができるのみであり、ヤマタノオロチに関する正確な情報はそもそも存在していない。
だがおおよその被害から、その戦闘能力をある程度想定することはできる。
(アキツシマの侍達では、なかなか有効打を与えることができなかったって話だ。けれどハルトが開発した強化歩兵であれば、たしかなダメージを与えることはできた……つまり攻撃力的には、機動鎧はしっかりと通用するはずなんだよね)
本来の正史であれば、侍達の攻撃では致命傷を与えることができず、強化歩兵でようやく攻撃が通るようになる。
そして戦い、いくつもの村や街を灰にし、多くの侍達が命がけの足止めを続ける中で、狂気に駆られたマッドサイエンティストであるハルトが強化歩兵をバージョンアップさせ続け、なんとかヤマタノオロチの征伐に成功するという流れだったはずだ。
ヤマタノオロチという魔物に関するたしかな情報のうちの一つは、圧倒的なまでの再生力。 八つの首を同時に潰すか、身体の中にあるとされる魔核を破壊しない限り、倒すことはできないという情報は、前世知識と照らし合わせても恐らく事実だろうと思われた。
トッドは事前に、ハルトが当時の状況から予算を注ぎ込めば、どの程度強化歩兵の能力を向上させることができたのかの試算も行っている。
そして既に現状自分達が開発している機動鎧が、ヤマタノオロチ討伐時の強化兵装をはるかに上回っているという計算も出ている。
故に討伐自体は問題なく行えるはずだ。
むしろ問題なのは、その前後の問題の方だった。
トッドはハクシと共にロビー活動を行い、アキツシマの有力者達をとある場所に呼び出すことに成功した。
そして意外なことに、リィンスガヤ新兵器のお披露目会の名目で集まったその場所には、現王であり、タケルにとっては祖父に当たる皇ミカゲの姿があったのだった――。




