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いざ、アキツシマへ


「無茶を言わないでくれ」

「それなら兄上も無茶しないで下さい!」


 トッドは何も言えず、ぐぅと唸る。

 話をしている度、エドワードの服を握る力が強くなっていく。


 今度行うアキツシマでの秘匿作戦『丙二番』。

 表向きはアキツシマとの今後の友好を確かめるための表敬訪問だが、その実はアキツシマへ行う内政干渉である。


 当然ながらあちらで騒動に発展することもあるだろうし、山の民征伐の時と同様、下手に帰って来れない可能性もある。

 そのためにトッドは最低限の人員だけを引き連れて、海を渡るつもりだった。


「今回は僕だけじゃなくてタケルも一緒に行くんだ。もしものことがあった時のことを考えれば、エドワードは連れて行けないんだよ」

「うむむ……」


 エドワードとしても、当然ながら兄の言い分は理解できる。


 三人全員が帰ってくることができなくなった場合、エネシアかアナスタシアのどちらかが女系で王を継がなければならない。 

 そうなれば間違いなく継承権問題に発展することになり、将来的にリィンスガヤの内政面で問題が出るだろう。


 だができることなら、理解などしたくなかった。

 理屈でわかっていても、それに納得できるかというのはまた別の問題だからだ。


「それなら僕だけが別の場所で待機していますから」

「それだとアキツシマの人に人質に取られる可能性があるでしょ」

「ぐぬぬ……」


 なんとかできないかといくつか提案をしてみるが、あらかじめ想定していたからか、トッドはそれらをあっさりと一蹴してみせる。

 今のエドワードに、トッドの考えを覆せるような考えは思い浮かばなかった。


「まあ、安心してよ。今回はそれほど危険じゃないから」

「本当ですか?」


 自分を安心させるために、嘘を言っていたらただじゃおかないぞ、という感じでトッドを見つめる。

 トッドはニコリといつものように笑う。

 どうやら嘘はついていないらしいと、長年の付き合いであるエドワードにはわかってしまう。


「ここを大過なく乗り越えられるくらいには、今まで頑張ってきたんだ」

「……そうなんですか?」

「ああ、後にはもっと大物達が控えてる。だからこんなところで、立ち止まってちゃいられない」


 そう言って立ち上がるトッドの横顔は、惚れ惚れするほどに美しかった。

 トッドのような男になりたい……その考えが頭をよぎった時には、エドワードの脳内はすっきりとしていた。


「兄上、それなら何か……僕にできることはありますか?」

「僕らが長いことアキツシマへ行けば、何かが起こることを危惧したリィンフェルトとの小競り合いが起こる可能性があるから、そのための対応をしてほしい。あと、機動鎧の機密が他国に行き渡らないようしっかりと情報統制もしてほしい」

「了解しました」


 弟の成長に喜びを感じるトッド。

 しかしその顔は少しだけ悲しそうでもあった。

 今まで自分の手にあったものが巣立っていく親鳥の気持ちを味わいながら、トッドは握手を交わす。


 そしてすぐに準備を始め――機動士トーナメントより一月後。

 許可が出たトッド達は、海路でアキツシマへと向かうのだった――。

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